自分たちの言葉は教会で学んだ
民族の誇り支えるキリスト教会の「寺子屋」

  • 2019/10/28

春休みの教会は学校になる

 まだあどけなさが残る若い女性教師が、ホワイトボードに書かれたアルファベットをもとに「アウン、オン、イン」などと発音すると、続けて子どもたちが後を追う。カチン語を習う子どもたちは小学校の1年生だが、ここは公式な学校ではなく、ミャンマーのカチン州ミッチーナにあるカトリック教会の施設の一室だ。学校では母語であるカチン語(ジンポー語)を学ぶことができないカチン族の子どもたちが、ここで読み書きを覚えるのだ。

教師とともにカチン語でテキストを読み上げる子どもたち(筆者撮影)

 ミャンマーは、135の民族を抱える多民族国家だ。その一方で、教育の現場ではビルマ語による教育が徹底され、カチン族やカレン族などの少数民族が自分たちの母語を学校で教えることを政府は固く禁じてきた。そして、19世紀ごろからのキリスト教の布教活動によってキリスト教徒に改宗したカチン族の間では、教会が開設するカチン語教室が母語を受け継いでいく場として大きな役割を果たしてきた。2016年の国民民主連盟(NLD)政権が発足してからは例外的に一部の公立学校で民族言語を教える取り組みが始まっているものの、大多数の少数民族の子どもたちは、こうした非公式な教育機関で母語を身につける。

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