二度目の行動制限でネパールの貧困層が苦境
「弱者を守れ」地元紙が昨年の教訓に学ばない当局のコロナ対策を非難

  • 2021/5/7

 一度は抑制された新型コロナの感染者数が再び増加しているネパール。各地で再びロックダウンが始まっていることを受け、4月26日付のネパールの英字紙カトマンドゥ・ポストは社説でこの問題を採り上げた。

第二波に見舞われているネパールでは、貧困層への打撃も懸念されている (c) kabita Darlami / Unsplash

第二波の襲来

 新型コロナの感染拡大を抑制するために、カトマンズ盆地の各地でロックダウンが再び実施され始めている。ネパール国内における新型コロナ感染者の累計は約30万人。死者は3000人を超えている。ネパールでは昨年3月24日から7月22日まで4カ月にわたりロックダウンが実施された。7月22日にロックダウンが解除された後も、教育活動や集会、レクリエーション施設などは、いまだに活動制限がかけられたままだ。
 そんな中、今年4月中旬から感染の第二波が始まった。4月26日だけで新規感染者は3400人余りを記録し、その数は日々、増えている。
 このような状態について、社説は「全国的なロックダウンから約1年が経過し、私たちは振り出しに戻ってしまった」と、嘆く。その上で、「私たちは昨年の教訓を生かして対応できるのだろうか」と、疑問を投げかける。
 社説によると、昨年3月に全国的なロックダウンが始まった際、政府の中には社会の底辺層に無関心な関係者もおり、貧困に苦しむ人々は日々の食事すら慈悲にすがらざるを得なかった。
 「再び行動制限が始まり、最貧困層の人々は日銭を稼ぐ手段を失う。政治や行政は昨年、彼らになんの支援も届けられなかった。第二波の到来にあたり、今度こそ彼らに手を差し伸べることはできるだろうか」

守られるべき人権

 さらに社説は、「政府が最貧困層の人々に対して無策だったために、昨年は数千もの人々がタンディケルに集り、慈善団体から無料の食事を受け取っていた」と指摘。その上で、「行政当局が自らの怠慢があらわになることを恐れ、こうした慈善行為を追い出すよう命じたことから悲劇が起きた」「我が国のように、多くの人が自らの境遇を運命だと諦め積極的に問題解決に当たらない国では、再び悲劇が繰り返されかねない」と警戒する。
 また、政局を動かすことに夢中で、最低限の食事や医療をすべてに提供することすらできない政治家のことも強く批判する。
 「過去24時間の新規感染者3442人、死者12人と、新型コロナの感染状況は悪化し続けている。医療崩壊の危機が迫り治療用酸素も不足しつつある。ロックダウンによって感染拡大を防ぐことが最優先課題なのは言うまでもないが、行政は最貧困層の人々の生活支援と医療アクセスの確保も忘れてはならない」
 感染症の防疫策には、貧困や移民など社会的な要素が深くかかわってくることを、新型コロナのパンデミックで私たちは痛いほど知った。「最悪の時だからこそ、最も弱い人々を守る必要がある」と訴えるこの社説は、至極まっとうだ。

 

(原文:https://kathmandupost.com/editorial/2021/04/26/set-up-soup-kitchens)

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