ワールドカップ、光と影
アジア各紙はカタール大会をどう報じたか

  • 2022/11/25

 サッカーのワールドカップカタール大会は11月23日、優勝候補の一つでもあるドイツを相手に日本が劇的な勝利を収め、盛り上がりをみせている。初めて中東・アラブ地域で開かれているこの大会の光と影を、アジアの各紙で見た。

ドーハで開かれた記者会見で「The Dark Side of Migration」(移民の闇:ワールドカップに向けたカタールの建設部門にスポットライトを)と題した報告書を掲げるアムネスティ・インターナショナルのサリル・シェティ事務局長 (2013年11月17日撮影) (c) ロイター/アフロ

シンガポール「揺れ動く国際情勢の中で一息つく瞬間」

 シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、11月20日付の社説で、「22回目にして初めてアラブ地域で開かれるワールドカップには、世界中から150万人が観戦に訪れるとされ、またそれよりももっと多くの人々がテレビやパソコンやスマホや大型スクリーンに張り付いて観戦する」と、伝えた。
 同紙はワールドカップをスポーツとしてだけではなく、「文化的、そして社会的な祭典だ」と表現した。「この地球上で35億人のファンがいると言われる最も人気のあるスポーツの魅力と、受け継がれるレガシーが、ワールドカップを特別なものにしている」
 そのうえで、今年のワールドカップをさらに特別にしているのは、ロシアのウクライナ侵攻やインフレなど、揺れ動く世界情勢の中で「一息つくような瞬間」であるからだ、と指摘する。
 「選手たちがフィールドに立つと、多くの都市で、町で、村で、人々は一つになり、希望と期待に胸を膨らませる。得点のチャンスが訪れると、席を立って応援する。人々は選手たちの才能や多様な国々の存在を認め合い、ライバルのサポーター同士をも結び付ける」
 「もしワールドカップの試合が、たとえひとときであっても、世界を覆う重苦しい空気を取り払うことができるのなら、それこそがゴールだ」

スタジアム建設における搾取労働を指摘するバングラデシュ

 バングラデシュの英字紙デイリースターもまた、11月20日付の社説でワールドカップの話題をとりあげた。「サッカーを楽しんで、ただし、よく目を開いて、よく見て」というタイトルだ。
 社説が指摘するのは、ワールドカップの会場となっているスタジアムで多くの移民労働者が過酷な環境下で働かされていたことに対する異議だ。
「2022年のワールドカップカタール大会は、人権擁護団体などから厳しい指摘を受けている。汚職の疑いや、移民労働者に対する不適切な扱い、そしてカタールにおける人権問題などへの批判だ。英紙ガーディアンが昨年報じたところによれば、カタールでワールドカップ開催の準備が開始されて以来、インド、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、スリランカから来ていた移民労働者6,500人が命を落としたという。ワールドカップスタジアムの建設現場で働く人々が雇い主から受けているひどい扱いや、賃金搾取についてのインタビューも報じられた。こうした声が、サッカーファンの歓声の影に隠れて見えなくなってしまってはならない」
 社説はワールドカップの開催そのものは歓迎するとしながらも、「私たちは、この機会が湾岸諸国で働くバングラデシュなどからの移民労働者の惨状について考えるきっかけになることを希望している」と、主張している。

放映権料の高さを指摘したタイとネパール

 タイの英字紙バンコクポストや、ネパールの英字紙カトマンドゥポストでも、11月半ばに相次いでワールドカップをめぐる社説が掲載された。話題はともに「放映権利料の高さ」についてだった。
 社説によれば、タイでは約14億バーツの放映権利料や関係する経費を、タイ国家放送通信委員会と民間企業が分担することが決定し、タイ国内でワールドカップが放映されることになって人々が安堵したという。
 他方、ネパールでは、試合を放送するケーブルテレビが「視聴者に料金の追加負担を求める」という方針を示したため、裁判所が待ったをかける事態となった。結局、11月16日に最高裁判所が「利用料金を追徴してよい」という判断を下したため、ネパール国内でワールドカップの生放送が可能になったという。カトマンドゥポスト紙の社説は「ワールドカップはもはや巨大なビジネスになっており、これからも多額のお金がかかるようになるだろう。放映権利料があまりに高価になるようであれば、政府が買い上げることも検討しなければならない」と、している。
               *
 11月23日の日本・ドイツ戦は、素晴らしい試合で多くの人に感動をもたらした。スポーツが生み出すポジティブな力を強く認識しながらも、バングラデシュ紙が指摘している通り、その光の影となった出来事にも目を向け、「なぜそうなったのか」という理由を考えるきっかけとしたい。

(原文)
シンガポール:
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/a-tournament-to-celebrate

タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2441324/world-cup-overreach

ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2022/11/14/nice-things-cost-money

バングラデシュ:
https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/enjoy-football-your-eyes-wide-open-3174151

関連記事

ランキング

  1.  「ミャンマーを忘れないで」。10月8日、タイのバンコク芸術文化センターの一角に、若きミャンマー人の…
  2.  16の州から成る連邦制をとるドイツには地域ごとに独自の歴史と文化があり、異なる行政体の下でそれぞれ…
  3.  昨年2月のミャンマーの軍事クーデター後に抗議活動に参加して当局に追われる身となり、現在も国境地帯に…

ピックアップ記事

  1.  「ミャンマーを忘れないで」。10月8日、タイのバンコク芸術文化センターの一角に、若きミャンマー人の…
  2.  16の州から成る連邦制をとるドイツには地域ごとに独自の歴史と文化があり、異なる行政体の下でそれぞれ…
  3.  昨年2月のミャンマーの軍事クーデター後に抗議活動に参加して当局に追われる身となり、現在も国境地帯に…
ページ上部へ戻る