検証進むマスクの感染予防効果
フィリピンの地元紙が制限緩和を警戒

  • 2020/6/29

 新型コロナウイルスの感染拡大は世界でまだ続くが、一部の国では経済への影響を懸念して少しずつ行動制限などを解除する動きが出ている。厳しい行動制限を設けていたフィリピン社会も、制限を緩める方向に動きつつある。6月27日付のフィリピンの英字紙インクワイアラーは、社説でこの動きについて取り上げている。

インクワイアラー紙は、マスクの着用が感染予防の上で効果があることを立証するさまざまな研究結果を伝えている (c) Ketut Subiyanto / Pexels

 

ジョコビッチ選手の教訓

 フィリピンでは、国内で確認された感染者数が6月末までに3万4,000人を超え、死者も1,200人を上回っている。一日の新規感染者が600人を超えることもあり、厳しい都市封鎖は緩和されたとはいえ、今なお多くの地域で行動制限が課されているのが実情だ。

 感染収束への道筋が見えないなかで制限緩和が進みつつあることに対し、社説は不安を訴える。「新型コロナウイルスの初めての感染者が中国・武漢で確認されてから半年が経過し、多くの国で移動規制が緩み始めている。人々は再び外出し始め、ビジネスが再開され、旅行の制限が解除されるとともに、人々が集まることも再び許可されている。しかし、いまだワクチン開発のめどが立たないなかで外出することが、はたしてどれだけ安全なのか。そして、感染しないためには何が必要だろうか」

 社説はここで、「ルールなき緩和」が示す恐ろしさの例として、男子テニス世界ランク1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)が開催したチャリティ大会で感染が拡大した事例を取り上げている。報道によると、この大会では、記念撮影のために選手同士が接触したり、観客の多くがマスクをしていなかったりした上、パーティーではジョコビッチ選手夫妻らをはじめ、その場にいた者たちが大声で歌い、ダンスをし、シャツを脱いでいたと言われ、結果的に夫妻をはじめ参加者の多くの感染が確認された。

ジョコビッチ選手の感染事例について、社説は「身体的な距離を確保したり、頻繁に手を洗ったり、マスクをつけたりせず、急速に日常に戻ろうとすることがいかに危険な行為かを世界に知らしめることになった」と、指摘している。

物議かもしたガルシア・セブ州知事

 社説は、「社会が今後、正常化に戻る過程でも、感染予防のために身に着けた習慣を継続すべきだ」と主張する。ウイルスは死滅していないからだ。なかでも強く求めるのが、マスクの着用だ。社説は、「ある調査によると、身体的な距離をとることと手洗いはもちろんだが、特に、マスクの着用は、感染予防の上で効果があるとの結果が出ている」と、指摘した上で、その根拠としてさまざまな研究結果を紹介する。

 「ケンブリッジ大学の研究チームは、どんなマスクであれ、常時着用することによって感染予防に効果があることを確認した」

 「バージニアコモンウェルス大学の研究チームは、タイ、日本、韓国、香港、ベトナム、台湾では、もともと人々の間でマスクの着用が習慣化していた上、感染拡大の初期段階でマスクの着用を強く求めるキャンペーンも実施されたことと、新型コロナウイルス感染者の死亡率が低い事実に着目し、因果関係を調査している」

 「マスクの着用は、ソーシャルディスタンスを守ることや、外出自粛以上に、感染予防に効果がある、という結果も出ている」

 他方、中部セブ州ではガルシア知事がマスクを着けていない姿が報道され、物議をかもしているという。フィリピン政府はこの3カ月間、国民にマスクの着用を繰り返し求め、警察もマスクをしない人々に注意喚起を行っていた。にも関わらず、ガルシア知事は「マスクを着けていると疲れる上、免疫力が下がる」などと言ってマスクを着けようとしなかったという。なお、この報道について、ガルシア知事は自身のフェイスブックで「部屋に自分1人だけしかいない時には、窓を開けて換気を行った上でマスクを着けていないという意味だ」と釈明しているという。

 社説は、「マスクが高炭酸ガス血症や低酸素症の原因になるという事実は、科学的に証明されていないし、WHO(世界保健機関)の研究でも、マスクの着用が脳や心臓に悪影響をおよぼすという科学的証拠はないことが示されている」と述べ、「知事の主張は成立しない」と批判する。

 この社説の主張は、とてもシンプルだ。「マスクを着けてください」。これは、フィリピンに限ったことではない。人々が動き始め、ビジネスが再開する今こそ、感染予防策の基本を振り返り、心に刻むべき時だ。

 

(原文:https://opinion.inquirer.net/131210/mask-on-please)

 

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