進む少子高齢化で対策迫られる東南アジア
出生率向上のためのアプローチを模索する動きも

  • 2024/1/12

 日本では間もなく高齢化率30%を超える。ほぼ3人に1人が65歳以上という、世界で最も高齢化したこの国は、出生率の低下とあいまって人口減少と少子高齢化の局面にある。だが、こうした状況にあるのは日本だけではない。かつて少子高齢化とは無縁であった新興国も、日本と同様の悩みを抱えるようになっている。

高齢化が各国で深刻化している (c) Alan Levine / flicker

タイの少子化対策 カギを握る移民労働者の子どもたち

 タイの英字紙バンコクポストは、2023年11月2日付の社説で、少子化対策の必要性を訴えた。

 社説によると、タイの合計特殊出生率は1.16で、人口を維持するために必要とされる2.1〜2.3を下回っている。「今後もこの傾向が続けば、60年後にはタイの人口は半分になるだろう」と、社説は指摘する。そうなれば、労働力が減り、政府の税収が減る。こうした現状に対し、タイ政府は、下がり続ける出生率の回復を国家課題として掲げているという。

 「公共保健相は、出生率を上げるための対策に着手すると発表している。しかし、言うは易く、行うは難し。実際、これまでの出生率向上の施策は、ことごとく失敗している」と、社説は悲観的だ。「夫婦が子どもを持たないことを決断する理由はさまざまだが、最も多いのは、経済的な理由だ。タイにおける女性差別の構造を考えると、女性が子育てをしながら働くことは難しい。まず、産休制度の改革が必要だ。1カ月1400バーツ(約5700円)の補助金制度はあるが、子育てにかかる費用にはとても見合わない。そのうえ、補助金を受けることができるのは年収10 万バーツ(約40万円)以下の世帯に限るという条件もあるため、非現実的だ」

 こうした状況下で、社説は「移民労働者の子どもたち」に目を向ける。タイには近隣諸国からの移民労働者が多く暮らしている。政情不安が続く隣国ミャンマーからの不法入国者や難民、あるいはカンボジアからの季節労働者など、もはや移民労働者なくしてタイの経済活動は成り立たないと言われるほどだ。社説は、「この国の人口動態を元に戻したいのなら、移民労働者やその子どもたちに、より多くの機会を与えることが重要だ」と、指摘している。

高齢社会に突入したシンガポール 目指すは高齢者の自立

 すでに高齢社会になっているシンガポールでは、英字紙ストレーツタイムズが2023年11月22日付紙面の社説で高齢社会の在り方について論じている。

 シンガポールの2022年の高齢化率は18.4%。2012年の11.1%から急速に増えており、2030年には23.8%にまで増加すると予測されている。これに先立ってシンガポール政府は「高齢化を成功裏に迎えるためのアクションプラン」を発表し、高齢者が健康に過ごすための対応策をまとめている。

社説によれば、シンガポールの高齢者向け施策には2つの重要な目的があるという。「第一に、高齢者に対し、自分が他の世代の人々に経済的・社会的な負担をかけていない、と安心させること。第二に、高齢者の社会的孤立を防ぎ、高齢者自身が積極的かつ自立して年齢を重ねられるようにすること」だと社説は述べている。

「人口ボーナス」を活かせないフィリピンの苦悩

 一方、高齢化率が5.44%と、まだ一桁台にあるフィリピンでも、英字紙デイリーインクワイアラーが2023年11月25日付の紙面でフィリピンにおける人口問題に関する社説を掲載した。

 フィリピンは世界で13番目、アジア太平洋地域では7番目に人口が多い国だ。2020年に1億9000万人だった人口は、2023年の年末には1億1500万人に達し、約600万人増加することが見込まれている。

 「だが、それ以上に興味深いのは、フィリピンにおける出生率の鈍化に伴って人口の大半が労働年齢層に属するようになったことだ」と、社説は指摘する。これは、フィリピン社会にとって「人口ボーナス」によりもたらされる経済成長を享受できることを意味するという。

 また、1人の女性が生涯のうちに産む子どもの平均人数を示す合計特殊出生率も2017年には2.7だったが、2022年には1.9に下がり、人口を維持するのに必要な数値を下回っている。1973年には6.0だったことを考えると、この50年で急激に減少していることがわかる。

 社説はこの状態を「労働者層が増え、扶養家族が減るという、経済成長を加速させるチャンス」だと表現する。しかし、フィリピンには現在、この豊富な労働力を吸収する労働市場がないため、人口ボーナスを十分に享受できていない、と、社説は現状を嘆く。

中期的に見れば、社説の言う通り、フィリピンは人口ボーナス期にある。だが、長期的に見れば、フィリピンもまた少子高齢化の道を歩み始めたと言えるだろう。

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 それぞれの国が少子高齢化と向き合い、文化や歴史、社会の特徴を踏まえた対策を検討している。日本は今、まさにそれらの国々の数十年後の姿であり、私たちには彼らに共有できる経験や知見が数多くあるように思われる。

 

(原文)

タイ:

https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2676513/births-of-a-nation

 

シンガポール:

https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/ageing-feels-better-in-the-community-at-large

 

フィリピン:

https://opinion.inquirer.net/168489/demographic-challenges

 

 

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