大気汚染が深刻化する南アジアで呼吸器疾患による死者が急増
国民の命を奪う「殺人的な空気」に追いつかぬ政策
- 2024/7/11
世界各地で環境と健康の関係が社会問題になっている。なかでも新興国の人々の健康を害する主要因として注目されているのが、大気汚染だ。特に南アジアは世界的にも大気汚染が深刻であり、当事国の紙面にもその危機感が滲む。
パキスタンで子どもの命を奪う「煙」
パキスタンの英字紙ドーンは、6月25日付で「致命的な大気」と題した社説を掲載した。
社説はまずユニセフなどの調査を引用し、「世界で毎日2000人近くの子どもたちが大気汚染に関連した健康被害で死亡している」という事実を挙げた。さらに、「2021年には世界で810万人が、大気汚染が原因で死亡した。これは、死者数全体の12%を占める」として、大気汚染がまさに「致命的」なレベルであることを指摘した。
また、「さらに憂鬱なのは」と、社説はパキスタン国内の事情に触れる。空気汚染が原因で死亡する5歳未満の子どもは世界で70万人に上り、うち50万人以上が、石炭や動物のフンを燃やす室内調理による煙によって命を落としているという。問題は、この室内調理が「パキスタンの貧しい農村部の家庭で広く行われている」ということだ。
社説は、「私たちは潜在的な健康被害に直面している。調理場の換気や煙突のそうじ、貧しい家庭へのマスクの無償提供など、迅速な対応が必要だ。一刻も早く、空気をきれいにしなければならない」と主張している。
バングラデシュ、大気汚染による死亡が年間23万人超に
バングラデシュの英字紙デイリースターも、6月21日付で「大気汚染はバングラデシュ最大の死因」との社説を掲載した。
社説によると、バングラデシュでは2021年、大気汚染に関連して23万6000人以上が死亡し、死因の第一位となった。その一方で、高血圧による死亡は約20万人、また、たばこや食生活の乱れによる死亡はそれぞれ約13万人である。社説は、「大気汚染による死亡が、高血圧や食生活の乱れ、たばこによる死亡を上回っていることは憂慮すべきことである」と警鐘を鳴らす。
さらに社説は、「大気汚染の防止は最優先課題だ」とも強く主張する。バングラデシュでは、建設工事の粉塵、排気ガス、工場排ガス、レンガ窯など、汚染物質を排出するさまざまな要因が問題視されているが、十分に規制されていないのだという。例えば、国内の登録車両600万台のうち、1割以上に上る61万7000台が、適合証明書がないまま走行している。社説は「市民が吸い込んでいる致死的な空気に対して、政府も、汚染物質を生み出す企業も、ほとんど何もしていないに等しい」と批判する。
ネパールのPM2.5、基準値の15倍を上回る
ネパールの英字紙カトマンドゥポストは5月22日付で「大気汚染のツケ」と題した社説を掲載した。
社説は国内で大気汚染による健康被害が深刻化しており、呼吸器疾患の患者が全国の病院に殺到していると危機感を募らせ、次のように指摘する。「それにもかかわらず、政府の最近の計画や政策は、この危機に対応していない。ネパールの大気は、世界保健機関(WHO)が推奨する粒子状物質であるPM2.5の基準値を15倍も上回っており、年間4万人もの生命が奪われている」。
そのうえで社説は「全国的な意識向上のキャンペーンが必要だ」と述べ、国を挙げた取り組みの必要性を訴えている。
(原文)
パキスタン:
https://www.dawn.com/news/1841823/fatal-air
バングラデシュ:
ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2024/05/22/burdens-of-bad-air