医療者が足りない!東南アジア諸国の現状
待遇改善により未来の医療に投資を
- 2023/8/3
新型コロナウイルスの世界的な大流行により、先進国でも途上国でも医療現場における課題が浮き彫りになった。なかでも全世界共通の課題となっているのは「医療人材の不足」だ。人手が足りなかったり、質が低かったりと問題はさまざまだが、医療の人材不足が私たちの生活や人生を大きく左右することを、コロナ禍によって思い知らされた今、手をこまねいてはいられない。
医療者不足を残業で補う、負のスパイラル
タイの英字紙バンコクポストは、6月9日付紙面で「私たちの医師に投資を」との社説を掲載した。
きっかけは、ある若い医師の告発だ。一人のインターン医師が、ある日のシフト勤務後、その厳しい労働状況についてフェイスブックに投稿。あまりに過酷だと訴えた後、医師を辞めてしまったというのだ。
社説によれば、国内の少なくとも9つの病院で、医師たちは1日に12時間以上の勤務を強いられているという。週に64時間以上になる計算で、週48時間という勤務規定をはるかに上回る。医師だけでなく、看護師も同じ状況にあり、ひどいときは週80時間を超える場合もあるという。
社説は、タイ国内の医師数は患者1000人当たり1人だと指摘する。理想的な状況は、1000人当たり3人だとされている。タイ保健省は、医師不足の現実を認識しており、インターネットを利用した遠隔診療や、地域保健師の育成などに取り組んでいるが、まだ不十分だという。
「医師不足を解消するためには、保健省による現在の取り組みを強化して医師の負担を減らすほか、待遇条件を改善することが必要だ」と、社説は指摘する。特に公立病院のインターンなど若い医師には給料の遅配がみられ、喫緊の対応が必要だ。
看護師の海外流出に悩むフィリピン、解決策はあるか
フィリピンの英字紙フィリピンデイリーインクワイアラーは、6月15日付の紙面で「看護師不足を解消せよ」という社説を掲載した。
社説は、ケソン市選出のリロ下院議員が指摘した国内の看護師不足について取り上げた。フィリピンでは現在、看護師が12万7,000人不足しているが、今後もその需要は増え続け、2030年には不足人数が25万人に上る見込みだという。リロ議員は、同国で看護師不足が深刻な背景として、海外への出稼ぎが多いことを挙げる。「看護師は、安定した儲かる仕事だ。経済先進国はフィリピン人看護師に多額の報酬を支払い、簡単に市民権を獲得できる道も用意している」。社説によれば、フィリピン人看護師10人のうち、祖国に残る人はわずか3、4人に過ぎないという。
フィリピンでは長い間、看護師をはじめ医療人材の「流出」が深刻な問題となっている。社説は、この課題に対するさまざまな施策を紹介する。例えば、看護師試験で不合格になった人を救済するプログラムや、資格取得者を増やすための柔軟な短期修習プログラム、看護奨学金プログラムなどだ。他方、社説は、こうした仕組みが「ディプロマ・ミル」と呼ばれる卒業証書の製造所になってしまわないようにすることが必要だ、と指摘した。
フィリピンデイリーインクワイアラーの社説が「最終的に必要なこと」として指摘するのは、バンコクポストの社説と同様に、医療従事者の待遇改善だ。社説は、「政府は給与を引き上げ、福利厚生を充実させることで結果を出さなければならない」と訴えている。
(原文)
タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2588419/invest-in-our-doctors
フィリピン:
https://opinion.inquirer.net/164057/solving-the-shortage-of-nurses