スリランカ経済危機の陰に中国あり
孤立する国や内戦国を支援して政治構造に浸透、国際社会の転換も

  • 2022/4/25

 独立以来、史上最悪と言われる経済危機に見舞われているスリランカ。中国は今月19日、同国に対して緊急人道支援を行うと発表した。だが、今、スリランカが直面している経済危機を招いたのは、ほかでもない中国だと言って過言ではない。むしろ、こうした中国が要因の危機が、今後、世界各地で勃発することによって、国際社会のフレームワークの大きな転換が起きる可能性がある。

ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の辞任を求めて、コロンボ市内のマヒンダ・ラジャパクサ首相の公邸のフェンスに白旗が掲げられた(2022年4月23日、コロンボで撮影)© AFP/アフロ

破綻した政治と社会

 スリランカでは今、経済危機に伴って社会が大きく揺れている。燃料の値上げに対する激しい抗議活動も起きており、3月31日にはゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の私邸が襲撃されて、群衆と警官隊が衝突。翌4月1日には、非常事態宣言が出された。その後、4日までに大統領と実兄のマヒンダ・ラジャパクサ首相を除く全閣僚が辞任し、政治的にも混乱が続いている。19日には、抗議する群衆に警官隊が発砲し、一人が死亡する事態にまで発展した。

 通貨の暴落も著しい。3月初めに1ドル203スリランカルピー(約78円)だった現地通貨は、今や335スリランカルピー(約128円)まで落ち、昨年8月に20億ドル(約2569億3731万円)以上あった外貨準備高も、今年3月末には17.24億ドル(約2214億8400万円)となった。2022年内が返済期限の債務も70億ドル(約8992億9700万円)に上るという。こうした状況を受けて、スリランカ政府は4月12日、対外債務の返済の大半を停止し、事実上のデフォルト宣言を行った。IMF(国際通貨基金)への緊急支援も要請するが、その履行には半年ほど要すると見られており、各国に対してつなぎ支援を要請している。

 中国人民日報傘下のタブロイド紙である環球時報が現地から伝えるところによれば、首都コロンボの市場では、米やミルク、ガソリンをはじめ、ほぼすべての生活物資の価格が高騰しているにも関わらず、唯一、賃金だけが上がっておらず、庶民の生活を直撃しているという。

 同紙の報道の通り、2019年に1キロ100スリランカルピー(約38円)だった主食のコメの価格は200スリランカルピー(約76円)を超え、ガソリン代も1リットル137スリランカルピー(約52円)から約254ルピー(約97円)に値上がりしているのに対し、コロンボ市の高級警官官僚の月給は10万ルピー(約3万8300円)のまま、変わっていない。停電も、毎日、数時間は続くために食事を作ることすらままならならない上、外貨不足でガソリンの輸入も滞っており、ここ数週間、市内のほぼすべてのガソリンスタンドに、ガソリンを求める人々が長蛇の列をなしているという。

スリランカには遺跡をはじめ、さまざまな人気観光地がある© Andreas Schmolmueller / Pexels

 この理由として、前出の環球時報はスリランカの最大の外貨獲得産業だった観光業が、2019年4月の連続爆破テロ事件を機に落ち込んでいたところにコロナ禍に見舞われた上、今年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻したことを挙げる。以前はスリランカを訪れる観光客の3割が、ロシアやウクライナ、ポーランド、ベラルーシから来ていたためだ。ロシアが侵攻に踏み切った時にスリランカ国内に滞在していた数千人のウクライナ人観光客は、今も足止めされたままだ。一方で、燃料価格の世界的な高騰により、スリランカの外貨準備はあっという間に底をつきてしまった、と同紙は指摘する。

 スリランカの外貨獲得手段は、観光業以外に、アパレル輸出や、海外に住むスリランカ人からの送金などもあるが、いずれもコロナ禍の影響から収縮したまま、復活していない。

「影響力を買う」投資

 しかし、スリランカ社会の混乱の原因はコロナ禍やウクライナ情勢だけではない。もっと大きな要因がある。それは、「一帯一路」構想を掲げる中国の「債務の罠」である。中国に言わせれば、スリランカの債務のほとんどは国際市場を通じたものであり、スリランカ危機を中国のせいにされるのは不条理だという。だが、中国がスリランカ政府の腐敗を助長し、政治構造の中に巧妙にその存在を浸透させてきたことは、疑いない。

 また、スリランカ市民が生活苦から激しい抗議運動を展開しているその背後で、中国企業は「一帯一路」構想の下で高速道路や港湾、石油精製所建設に投資し、工事を継続している。これは中国の経済的な利益のためでもなければ、スリランカのためでもなく、中国の戦略的な価値、特に軍事戦略的な価値に従った判断だと言われている。

 最大都市コロンボに本部がある政策代替センター長のパイキアソティ・サラヴァナムトゥ氏は、オーストラリアのABCニュースのインタビューに答えて「スリランカにこれまで巨額の投資を行ってきた中国は、すでにスリランカの政治構造の一部となっている。どの政党が権力を握っているかにかかわらず、今後もスリランカにとどまり続けるだろう」と指摘。その上で、「中国は、北京にとって戦術的に重要なプロジェクトを実施するために、脆弱な国々に巨額の融資を行ってきたが、それは融資先の国々や国民に何の見返りも与えず、経済問題の解決にもつながらない。ただ、中国がその国への影響力を買う状況となっている」と解説する。

スリランカの最大都市コロンボを臨む © Tharoushan Kandarajah / Unsplash

 中国の一帯一路構想は2015年に正式に打ち出されたが、それ以前から、インド洋をめぐるシーレーンの防衛要衝地に「影響力を買う」ための、戦略的で戦術的な投資が行われてきた。

 スリランカについて言えば、シンハラ・スリランカ政府とタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の30年に渡る内戦を2009年に終結させた後、当時のマヒンダ・ラジャパクサ大統領(現首相)と弟、側近らが政権を牛耳る状態になった。中国は、スリランカがラジャパクサ政権による戦後復興ブームに沸く中、「現金を持って、スリランカを助けるふりをしてやってきた」という。ラジャパクサ家の地元、ハンバントタで港湾工事が着工したのは、その翌年だ。

 中国は、スリランカ政府とLTTEの双方に対して2011年に提出された、残虐行為による戦争犯罪と人道に対する罪についての説明責任と国際調査実施を求める動議案に棄権票を投じた。一般市民や病院など非軍事施設に対する攻撃、国内避難民の人権侵害、紛争地域外でのメディア、政府批判者への人権侵害が告発されていたスリランカ政府を、外交的に擁護したのだ。

 戦争や紛争、あるいは国際的な非難に直面する国を外交的に支援しながら、自国に有利な形で投資交渉を進め、その国に対する影響力を買う中国のやり方は、一帯一路がスタートする前からこうして試行錯誤されてきたのだ。

返済不能に陥り事実上の譲渡

 中国とスリランカ当局は2017年、中国国有企業の招商局港口がスリランカ南部ハンバントタの深海港を11億ドル(約1413億1552万円)あまりで99年間租借する契約に調印した。この港を建設する約13億ドル(約1670億925万円)の費用の大半は中国からの融資であり、最高6.3%に上る高金利だった。結局、スリランカは返済ができなくなり、リースの形で中国に事実上「譲渡」されることになったことから、中国の「債務の罠」の典型例と見なされた。

ハンバントタ港(2013年9月撮影)© Deneth17 / Wikimedia Commons

 このハンバントタ港は、今後、中国人民解放軍によって使用される可能性がある。中国側はあくまで商業港として運営すると約束しているが、南シナ海に建設した人工島も、当初は軍事目的ではないと言っていたにも関わらず20以上の軍事基地を造った中国の言い分を信じるわけにはいかない。

 ちなみに、このハンバントタを奪った中国の手口は、2018年6月26日付のニューヨークタイムズ紙に詳しい。記事では、2015年の選挙の時に中国港口建設がラジャパクサ政権に大量の選挙資金を提供し、取り込む様子が明らかにされた。

 目下の激しい市民抗議活動の背景にも、中国と癒着するゴダバヤ・ラージャパクサ大統領(マヒンダ首相の弟)に対する不満があることは、大統領私邸が襲撃のターゲットになったことからも分かるだろう。前出のサラヴァナムトゥ氏は、ABCのインタビューで「中国はすでにスリランカの政治構造の一部であり、彼らを取り除く方法はない」とも指摘している。中国がこの10年にわたりスリランカにインフラ投資の名目で貸し付けてきた資金は、50億ドルを下らない。

「債務の罠」の二面性

 厳しい経済危機に直面しているにもかかわらず、スリランカは4月中旬になるまでIMFに支援を要請することを嫌がった。厳しい緊縮財政を求められるからだ。その代わりに頼ったのが、中国だ。中国は昨年、シンジケートローン13億ドル(約1670億925万円)に加え、スリランカの財政危機を緩和するために元建て15億ドル(約1927億298万円)のスワップ協議に調印。これによって、11月に16億ドル(約2055億4985万円)まで減っていたスリランカの外貨準備高は一時的に30億ドルに増えたが、それは、たとえて言うなら薬物依存症に薬物をさらに打って廃人にするようなものであり、自力で立ち直る気力を失わせるものだろう。

コロンボ市街を歩く市民 Chamindu Perera / Unsplash

 「債務の罠」と言われるこうした状況は、決して途上国側が一方的に罠にはめられたのではなく、途上国の政権当事者が個人の政治的および経済的な利益から、罠を理解した上で自ら中国の軍門に下ったと見られる部分もあるから、ややこしい。

 ABCニュースは、インドのムンバイにあるタタ研究所のエコノミスト、R・ラムクマール教授の「(こうした状況は)南アジア地域を横切って構成される大規模な商業契約であり、これらの国々は中国の融資の恩恵を受けたいのだ」というコメントも紹介している。

 デフォルトを回避することが不可能な状況になってから、スリランカはようやくIMFやその他の国々に支援を依頼した。これに応えてインドはスリランカの中国依存度を少しでも減らすべく20億ドル(約2569億3731万円)相当の金融支援の準備をしていると言われるが、スリランカはさらに中国にも金融支援を求めた。駐中国スリランカ大使は、25億ドル(約3211億7163万円)相当の資金を支援する確約をしているとブルームバーグなどに説明している。中国はまさしく経済危機に乗じてスリランカ支配を強化していると言える。

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