スリランカで強まる高等教育の実学志向
大統領自ら労働市場に呼応した技術系人材の育成を強調

  • 2020/10/14

 経済成長を続ける新興国において、人材の育成は常に重要な課題だ。特に、高い技術力を持つ人材は世界中に需要があり、より良い条件があれば国から流出してしまうため、彼らをいかに国内に確保できるかどうかが経済発展のカギを握っていると言っても過言ではない。9月25日付のスリランカの英字紙デイリーニューズは、社説でこの問題を採り上げた。

スリランカでは大学のカリキュラムを労働市場のニーズに見合った内容に改革するよう大統領自身が繰り返し指示を出し、実学志向が強まっている

現状に合わない教育システム

 社説によれば、スリランカのゴーターバヤ・ラージャパクサ大統領は、国内の高等教育関係者に対し、国の教育政策について議論を交わしてスリランカの教育システムの抜本的な改革につながる明確な方向性を示すように指示を出したという。

 「大統領は、このほど開かれた国家教育改革省の会議の席上、スリランカの教育改革が長きに渡り成果を上げておらず、現在の雇用市場で求められる人材を生み出していないと指摘した上で、大学教育で大切なことは、国際社会で活躍し、国の経済成長と発展に貢献できる人材の育成だと述べた。さらに、大学は学位を授けるためだけの機関ではなく、生産力のある国民を育てる場であるべきだと強調した」

 社説は、これまでも大統領が「大学教育は経済活動と直結するものであるべきだ」と繰り返し述べ、国内外の労働市場が求める人材を育成するカリキュラムを検討するように大学関係者に指示を出していたと報じた上で、次のようなエピソードを紹介している。

「文系は社会に求められる労働力ではない」のか?

 「以前、大統領がある村にキャンペーンで立ち寄った時、大学を出ても仕事がないと嘆く若い女性に会った。大統領はその女性の話を根気強く聞いた後、専攻は何かと尋ねた。彼女が政治学だと答えると、“もし技術系の学問を専攻していたら多くの機会に恵まれていただろうに!”と話した」

 まさに大統領のテクノクラシー(技術者主義)的な姿勢を示すエピソードだが、社説は「この話は、わが国の大学が労働市場の求める人材を輩出できていない現状を端的に示している。」と、手厳しい。

 「大統領は、大学が現行のカリキュラムを労働市場の要求に応じたものに変更すべきだと、と繰り返し主張する。労働市場が何年にもわたって求め続けてきた医学やエンジニア、看護、情報技術といった実学分野に現在の大学の教育システムが全く対応できていないと大統領は考えている。大学のカリキュラムが議論の俎上に上がるのは初めてのことではない。自由市場経済や活発な経済成長を実現するために、最新の技術や知識を持つ労働力が必要なのだ」

 この社説は、一貫して大統領の現状に厳しい目を向け、技術者至上主義的側面を反映した内容になっている。もちろん、大学は学問の場であり、労働者を育成する場とは違う目的があるはずだ、との議論もあるが、社説は大統領が情報技術を文系学部の一つに加えることを提案していると伝えた上で、「文系の学部は就職につながりにくく、政情不安の温床にもなっている」として、非常に厳しい見方を示す。

 現実社会の需要に合った教育内容であることは、もちろん重要であるものの、文系分野の学究もまた、社会の重要な礎となることを忘れないでほしいと願う。

 

(原文: http://www.dailynews.lk/2020/09/26/editorial/229770/looking-ahead)

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