インドの社説が中国の女子テニス選手問題に言及
「民主国家として人権問題を見逃すな」

  • 2021/12/8

 中国の前副首相との性的関係などをインターネット上で告白した後、行方が分からなくなっている中国の女子テニス選手、彭帥さんをめぐって安否を気遣う声が各国で高まり、議論が起きている。11月22日付のインドの英字メディア「タイムズオブインディア」は社説でこの問題を採り上げた。

チャイナ・オープンで米国のビーナス・ウィリアムズ選手に勝利し微笑む彭帥選手(2016年10月3日撮影)(c) AFP/アフロ

雪だるま式に膨れ上がる問題

 彭帥選手の安否を懸念し、有名テニスプレーヤーたちが相次いで声を上げている。社説は、ロジャー・フェデラーや、セリーナ・ウィリアムズなどの名前を挙げた上で、次のように述べる。
 「彭帥選手は、かつて中国の中枢部におり、習近平国家主席に近かった張高麗副首相に性的関係を強要された、という。しかし、彼女の『Me Too』の訴えは、すぐに中国のソーシャルメディアから消し去られ、彼女は公衆の前から消えてしまった。この事件に対しては国際社会から非難の声が上がっており、有名テニス選手たちや世界女子テニス協会(WTA)までもが中国政府に対して、彭帥選手の安全と、彼女の訴えに応える透明性の高い調査を要求している」
 こうした圧力を受け、中国の国営メディアは、彭帥選手がジュニアテニス大会に出場したり、レストランで食事をしたりしている映像を放映した。しかし、WTAのスティーブ・サイモン最高経営責任者は、「彭帥選手の安全を確認できたとは言えない」と指摘した上で、「同選手が独自に判断できる状態にあるかどうかも疑わしい」との見方を示している。
 社説は、「一連の出来事が2022年2月の北京冬季五輪の数カ月前に発生したということは、この問題が雪だるま式に膨れ上がり、中国指導部にとって深刻な政治的恥辱となる可能性がある」と述べた上で、米国が北京冬季五輪の「外交的ボイコットを検討していることに言及。「米国の国会議員の中には、中国の人権侵害を問題視し、全面ボイコットを求める声もある。もしも米国が実際にボイコットに踏み切り、他の友好国もそれに従えば、習近平国家主席は完全に面子を失うだろう」と指摘した(編集部注:その後、米国は12月6日、正式に北京冬季五輪のボイコットを正式に発表した)。
機会を逃さず説明求めよ

 社説は、今回の事件によって、中国の指導部層が今後、深刻な打撃を受ける可能性があると指摘する。しかし社説は、「全面ボイコットは選手たちにとって公平な対応ではない」と反対した上で、「中国に疑問を投げかけるこの機会を逸してはならない」とも主張。「インド政府は通常、こういった問題には口を出さない。しかし、今回は、民主国家として、中国政府に抗議した中国人の扱いについて説明を求めるという国際社会の動きに同調すべきだ」と訴える。
 他国の人権問題に口を出すことは、しばしば「内政干渉」として一蹴される。特に、自国内に人権問題を抱える国の場合は、なおさらだ。しかし、人権問題を「自国のみ」で解決できない場合があることは、これまでの歴史によって明らかだ。「人権問題はグローバルイシューであり、内政問題ではない」という認識を、国際社会の常識にすべきではないか。もっとも、昨今、米国を中心に進む「中国包囲網」には、インドも加わっている。人権問題が政治的に利用されることのないよう、注意しなければならない。

 

(原文https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/beijings-games-questions-on-peng-shuai-remain-as-do-questions-on-chinas-treatment-of-those-who-speak-up/)

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