シリアに放置される「“敵”の子どもたち」
ISIS掃討作戦後の難民キャンプに残された子どもたちに国際社会はどう向き合うのか
- 2023/8/28
ゴルキ・グラセル・ミューラー監督の訴え
映画『“敵”の子どもたち』を制作したゴルキ・グラセル・ミューラー監督は、パトリシオと長年の友人であると同時に、彼のミュージックビデオを撮影したこともある間柄だ。彼が孫をシリアの難民キャンプから救い出そうとしていることを聞き、その一部始終を映画化することを決めて、同行撮影した。たった一人のクルーであり、友人として、いざとなれば彼を助けることを約束して臨んだという。
筋書きがないドキュメンタリーを撮るということは、常に動き続ける現実を前にカメラを回し続けるということだ。ミューラー監督は、パトリシオが本当に孫を救うことができるか確信が持てないまま撮影を続けていたが、思いがけない事態の連続に、作品の中で何度か思わずカメラの前に飛び出してしまうシーンがある。それだけ緊迫感と見応えがある作品であることは間違いない。
公開にあたり、監督は「この作品は、パトリシオ・ガルヴェスが自分の孫を救うために、逆境と闘いながら一歩ずつ進んでいく物語です。しかし、彼はまた、自身の闘う姿を通じて、人間が存在することの意味を問いかけています」と述べる。
そのうえで、映画を制作しようと決めた理由について、「7人が“スウェーデンの無邪気な子どもたち”ではなく、“ISISの子どもたち”、“テロリストの子どもたち”と呼ばれることに強い違和感と憤りを覚えたため」だと話している。
「ギリシャ神話の中に、敗者の運命が次世代にも受け継がれることを描いた『イーリアス』という物語があります。“敵の子ども”を助けようとしない社会システムに個人で闘いを挑むパトリシオの偉大な行動は、まさに『イーリアス』の中のダビデそのものです。同時にこの作品は、我が子に先立たれるという、親にとって最大の悼みを描いた物語でもあります。娘のアマンダが死んだのを知った時、パトリシオはどんな危険も顧みずに孫たちを救おうと誓いました。その瞬間から、戦時下の子どもたちの物語は、愛される子どもたちの物語へと変わったのです」
スクリーンの前の私たちは、この映画を通じていくつもの問いを投げかけられる。どうすればパトリシオは娘を失わずにすんだのか。“ISISの子どもたち”は人権が認められずに難民キャンプに放置されていいのか。過激派組織ISISとイスラム教徒を混同し、知らないうちにイスラムフォビア、すなわちイスラム恐怖症の視点に立ってはいないか―。
映画『“敵”の子どもたち』は、9月16日(土)より東京のシアター・イメージフォーラムをはじめ全国の映画館で順次ロードショーが始まる。パトリシオが勇気を持って7人の孫を救出した姿と、まだ多くの子どもたちが難民キャンプに取り残されているという事実に思いを馳せていただきたい。