頼清徳・台湾新総統が就任一カ月で直面する苦悩
内外から崩壊を仕掛ける中国との間で早くも激化しつつある戦い

  • 2024/6/28

危惧される太平洋島嶼国の二の舞

 これに対し、頼清徳総統は24日、「民主主義は犯罪ではない。専制こそが罪悪だ」「中国には台湾の人々を制裁するいかなる権利もない」と反発した。一方、国民党は、朱立倫主席が「大陸には台湾に対するいかなる司法管轄権もない」とコメントはしたものの、馬英九事務所の報道官は、「大陸が軍事手段ではなく、法的手段に訴えるということは、台湾海峡両岸の間にまだある程度、平和の余地があるということだ」「(頼総統側が)新二国論、台湾独立路線を正し、台湾海峡の平和と安全を考えたうえで一つの中国原則に立ち返り、両岸の相互信頼を再構築すべきだ」と述べ、習近平政権の代弁者のような発言をしたのだった。

1949年に古寧頭戦役が起きた現場に近い海岸に設置された金属の棒。満潮時には水面下に隠れ、気付かずに接近してくる中国解放軍の揚陸艦を座礁させる狙いがある。(2024年5月、金門島で筆者撮影)

 このような状況で国会権力が拡大していけば、中国は野党立法委員を通じて法律や世論が中国に有利になるよう画策・誘導し、ひょっとすれば頼清徳総統を弾劾するチャンスをうかがうようにもなるだろう。有権者によって選ばれた立法委員(国会議員)が、自国の政府や国民の利益よりも敵対国家のために働くことがあり得るのか、と驚かれる読者もいるかもしれないが、事実、中国はこのやり方で、ソロモン諸島やモルジブなど太平洋上の小国の政治をコントロールしつつある。

総統就任式に向けて行われていた予行演習の様子(2024年5月、台北市内で筆者撮影)

 就任演説で実に力強く、感動的に国家としての台湾の自信と展望を語った頼清徳総統だが、実際には、中国という巨大な敵と、その中国の手先となって内部から台湾を破壊しようという立法院やメディアの内部に巣くう獅子身中の虫、そしてそれらに惑わされる世論とも戦わねばならないという、極めて困難な局面にある。

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