米中対決の舞台となった国連総会
国際秩序の再編成で中国式価値観は世界標準になるのか

  • 2021/9/29

迫られる「選択」
 こうした米中の対立が持ち込まれたことに、国連も困惑している。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「米中が新たな冷戦状態に陥れば、世界は分裂の危機に瀕する」と警告している。グテーレス事務総長はAP通信の取材に答え、「中国と米国の両極の二大強国の問題がさらに拡大して他国に影響を与え、コントロール不全に陥る前に関係を修復してほしいと切に願う。全世界がかつての米ソ冷戦時代よりもさらに危険な新冷戦に陥ることは避けたい」と語っている。
 トランプ前政権時代に米国が国連から離れていた間に習近平政権は国連乗っ取り戦略を本格化し、今も15の国連関連機関のうち3機関のトップ職位を押さえている。今年7月までは4機関のトップが中国人だったが、これは国別で見ると最多だ。この背景には、チャイナマネーがばらまかれているアフリカや中東、東南アジアなどの途上国票が中国に有利に働いていることが挙げられる。また、国連分担金も中国は2019年、日本を抜いて2位の座についた。国連における中国のプレゼンス拡大の速さは尋常ではない。
 さらに中国は、ウイグル・ジェノサイドをはじめ、中国の人権問題を非難してきた国連人権理事会に対しても、自分たちの価値観を浸透させようとしている。9月9日には「中国国家人権行動計画」(2021~2025年)を発表し、2024年にも国連人権理事会のメンバー入りを果たした上で、中国社会の組織の影響力を発揮して積極的に多様な人権メカニズムの活動に参加していくことを目標に掲げている。これは、西側諸国が押し付ける人権の価値観に中国が寄り添うのではなく、中国の人権観を国際社会に承認させ、中国が国際人権問題のリーダーシップを取っていくという意向を強く打ち出したものであり、専制主義の輸出につながる可能性もある。

© Martin Sanchez / Unsplash

 国連を無条件に正義と信じる傾向が強い日本人にとっては、「ありえない」と思われるだろうが、国連加盟国を見てみると、西側の掲げる人権や民主主義の価値観より、中国のような権威主義や部族的な専制主義、封建主義的な価値観に近い国の数の方が多い。実際、常任理事国には、中国とロシアという、民主主義の価値観が大きく異なる国が二つも入っており、国連主流の価値観が中国式の民主主義や人権の文脈で語られる日が来る可能性は、意外に小さくない。実際、今般の新型コロナウイルスのパンデミックを見ても、WHO(世界保健機関)の判断や価値観は中国の政治的な意向にかなり左右されていた。
 世界はすでに次のステージに向けた国際秩序の再編成に動き始めている。国連の主導権を米国が取るか、中国が取るか。バイデンが語ったように、それは我々の「選択の問題」だ。日本はどちらを選択するのか、そして、国連がその選択によって変質した時、日本は国連に従うのか否か。そういう問題も、考えておくべきかもしれない。

 

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