国道1号線をゆく
ホーチミン〜プノンペン 過去・現在・未来の姿に想いを馳せながら

  • 2019/7/10

 思えば、かなりヒヤッとする体験もした。当時は両都市をつなぐ長距離バスなど運行していなかったため、ホーチミンからバスに乗って国境近くの街まで行き、そこから国境のモックバイまでの20kmほどは、バイクタクシーか白タクに乗らなければならなかった。野原の中にポツンと立つプレハブでできたイミグレオフィスに着いた時、初の陸路国境越えに興奮したか、私はトイレに行きたくなった。申し出るも、係官が指さすのはイミグレの外、カンボジア側に続くエリア。どちらの国に属するとも思えない開放感にあふれた野原で、事なきを得たのであった。

 歩いて国境を渡り、カンボジア側に足を踏み入れた途端、どこからともなく客引きが現れた。プノンペンに向かう乗り合いの白タクに乗らないかと誘う客引きだ。もちろん、値段交渉は必要で、折り合いがついた乗客が定員に達したら、ようやく出発。土埃の立つ道を進み、途中、フェリーで車ごと大きな川を渡ったのが印象的だった。朝早くホーチミンを出発したのに、プノンペンに着く頃には、日がとっぷりくれていた記憶がある。

今は昔。中国語が踊るカジノの街
 時は再び2019年。のんびりしたカンボジア側のイミグレの建物を出ると、データ通信のSIMカードを売るブースやカフェが並んでいるのが目に飛び込んできた。トウモロコシを売る行商人も寄ってくる。「一応、ここはまだイミグレの敷地内のはずだが」と思いながら、3日間の滞在には十分な5ドルのSIMカードを購入する。SIMフリーのスマホに入れれば、すぐに4G/LTEで通信ができる。

カンボジア側に入ると、土埃の舞う道路が5キロほど続く。次に来るときには舗装されているのだろうか(筆者撮影)

 再びバンに乗って出発。カンボジア側の国境の街、バベットに入ると、目の前にカジノ特区が広がる。そういえば、イミグレオフィスに横付けし、人を乗せては走り去る送迎カートには、すべてカジノの広告が入っていた。イミグレとこの辺りを往復しているのだろう。私はここ10年ほど、年に1度は必ずこうして陸路で国境を越えているため、この辺りも定点観測しているが、訪れるたびに建物が増えているように思う。カジノ自体の数はさほど変わらない印象だが、やってくる客目当てのホテルや食堂、あるいは、従業員向けの宿舎なのだろう簡易的なアパートの類が、まるで雨後の筍のように増えているのだ。特に、やたらと質屋が並んでいるのを見ると、自国内でカジノが禁じられているベトナム人たちが、モックバイを超えバベットまでやって来て、ひと山当てようと意気込んでいる様子が目に浮かぶ。

カンボジア側の国境の町「バベット」に現れるカジノタウン。 昼間に通るとそこはゴーストタウンのようにも見える(筆者撮影)

 ここらの上客は中国系の人たちなのだろう、カジノの周辺には、中国語で書かれた看板が目立ち、日本語はまったく見かけない。プノンペンに向かう往路はこの辺りを午前中に通ったため、閑散としていたが、ホーチミンに帰る時は夜だったため、一帯に煌々とネオンが点り、雨天にも関わらず人の往来が見て取れた。国境に突如、現れるカジノ街は異様だが、これもカンボジア経済の一翼を確かに担っている産業だと思うと、なかなかに興味深い光景だと言えよう。

昼間の顔とは一転、夜のカジノはネオンも鮮やかに本領発揮といったところ。 周囲のレストランやミニホテル、マッサージ店も賑わっていた(筆者撮影)

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