学校再開の是非めぐりインドネシアで論争
地元紙は「国際ガイドラインに反する時期尚早な決定は危険」だと批判

  • 2020/8/18

 新型コロナウイルスの感染拡大が収束の様相を見せないまま、各国で学校や経済活動の再開が始まっている。インドネシアでも段階的に学校が再開されているが、8月10日付の現地英字紙ジャカルタポストは、社説で「学校再開は危険」だと論じた。

インドネシアでは8月7日、いわゆる「イエローゾーン」でも学校の再開が決定され議論を呼んでいる (c) Ali Yahya / Unsplash

危険な「見切り発車」

 インドネシアでは、感染拡大の状況によってグリーン(陽性者がいない)から、イエロー(陽性反応者が20人以下)、オレンジ(同21人から40人)、レッド(同41人以上)の4段階にゾーン分けされており、レッドゾーン内では、集中的な消毒や行動制限が行われ、警察や軍が地域を封鎖する。

 8月7日に学校再開が決定されたのは、このうちのイエローゾーンにあたり、社説は、「この決定は、感染拡大が抑制された場合にのみ学校再開を認めるという国際的なガイドラインに反している」と批判する。

 「1カ月前、政府はグリーンゾーンのみ学校の再開を認める、としていた。しかし、その後、検査数が増えたという事情もあるとはいえ、インドネシア国内の感染は拡大している。今回、イエローゾーンでも学校再開が決定されたことにより、生徒たちが友人や先生との接触を通じ、感染拡大の危険も増える。それは、医療への負担を増大し、長期的には経済の再興にも影響を与えることになるだろう」。

 インドネシアの感染者は8月10日現在、約12万5,000人、死者は5723人に上り、東南アジアで感染拡大が最も深刻な国の一つになっている。社説によれば、学齢期の子どもたちの57%がレッド、およびオレンジゾーンに住んでおり、グリーン、およびイエローゾーンには43%が住んでいるという。「多くの子どもたちや保護者らが学校再開を待ち望む気持ちは理解するものの、感染がいまだ拡大する中での学校再開は“見切り発車”だ」と、社説は非難しているのだ。

増える子どもの感染

 また社説は、すでに学校が再開されている国でも厳しい感染予防策がとられていることに触れ、「日本や韓国、イスラエルなどでは、感染予防をとった上で学校再開に踏み切っているにも関わらず、保護者たちは子どもたちを学校に通わせることを躊躇している」と、指摘する。「たとえばイスラエルでは、いったん学校が再開されたものの、生徒や教師に感染者が確認され、再び休校措置がとられた。日本では、毎日熱をはかり、マスクの着用を義務づけ、ソーシャルディスタンシングも守るようにし、登校時間をずらすなど、特別な注意を払いながら学校が再開されている」

 注目されるのは、インドネシア国内では子どもの感染者が比較的多いという指摘だ。「世界的に5歳から14歳までの感染が増加傾向にあるが、貧困や気候変動、飢餓などの統計データを独自に収集し、公開しているOurworldindata.orgによると、インドネシアでは当該年齢の児童の感染率は6.8%に上り、世界平均の5%を上回っている」

 社説は、「学校が再開されれば、この数字は一層増えるだろう」とした上で、学校再開を2020年末まで延期するよう提言する専門家の意見を紹介し、政府の対策を次のように非難する。「もし、政府がもっと迅速かつ効果的にこの問題に取り組んでいたら、学校も経済活動も再開できていたかもしれない。しかし、政府はその責任を国民に転嫁し、軍や警察を使って感染予防策に従わせようとしている」

 感染拡大が長引くなか、新型コロナウイルスと共生する長期的な取り組みが必要になっている。

 

(原文: https://www.thejakartapost.com/academia/2020/08/10/school-reopening-risky.html)

 

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