地域組織の苦悩 課題多きASEANと会合も開けぬSAARC
「地理的な近さ」でつながる危うさと重要性
- 2023/11/5
9月5日からジャカルタで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議では、ミャンマー問題や中国との関係など、ASEAN内外のさまざまな課題が浮き彫りになった。今年の議長国はインドネシア。昨年はG20の議長国を務めた同国は、アジア地域のみならず、グローバルサウスの中心を担う一国として、国際的なプレゼンスを高めている。
利害が異なる近隣諸国の集まり
国際的な注目が高まる一方、インドネシアの英字紙ジャカルタポストは9月6日付の社説で「ASEANは達成可能なものを目指す」と題し、域内のとりまとめ、なかでも経済統合の難しさを指摘した。
社説は、「ASEAN加盟国がもともと互いに競争相手であることを忘れてはならない」と、書き出す。そして、「競争そのものは協力のきっかけになり得る」としながらも、「競争は自然に発生するが、協力には時間と献身が必要だ」として、ASEANが数十年にわたり取り組んできた経済統合のビジョンが、いまだ印象に残る成果を残せていないことを嘆いた。
その理由として社説は、ASEANが地理的な近さのみに基づく組織であり、経済状況も発展段階も国ごとに大きく異なることを挙げる。具体的には、「資源輸出に依存する国と金融ハブの国、人口が若い国と高齢化した国、島嶼国と内陸国」など、相反する課題を抱える多様な国々の集まりであり、各国の共通点を見つけるほうが難しい、と指摘する。
そのうえで社説は、「インドネシアの場合、他のASEAN諸国より南アフリカのような国との間で、より多くの共通点がある」と述べる。「両国とも新興市場であり、豊富な石炭資源に依存しているうえ、エネルギー移行プログラムに取り組んでいる最中であること。また、国内の貧困や学校教育、保健医療などの課題を抱えていることが共通している」。確かに、地理的に近いということだけでは、利益を共有する基盤として弱い、と言うのは、ある面では事実だろう。
他方、社説は、ASEANには「近さ」ゆえの共通の利害もあると指摘する。例えば、安全保障や気候変動の影響、国境を越えた金融取引の促進などだ。社説は、「インドネシアは議長国として、こうした近接性に基づく共通の利益を協力分野として重視していく」と、述べている。
南アジア地域の期待に応えぬインド
ASEANが限界を感じながらも、共通の利益を追求して課題に取り組もうとしている一方、会合すら開催できない地域組織もある。南アジア地域協力連合(SAARC)だ。
ネパールの英字紙カトマンドゥポストは、9月18日付の社説で、「ニューヨークで国連総会が開催されたタイミングがSAARC開催の絶好の機会だったものの、逃してしまった」と、嘆いた。
SAARCは1985年に設立された地域組織で、インド、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、ネパール、ブータン、モルディブの、南アジア7カ国が加盟している。しかし、首脳会議は2014年にネパールのカトマンズで開かれて以来、開催されていない。「首脳会議が開かれないため、ネパールは議長国を引き継ぐことができずにいる」状態だという。
主な要因は、インドとパキスタンの間の対立だ。社説によれば、インドとパキスタンは、どちらもSAARCの設立当初から、互いに組織を利用するのではないかと疑心暗鬼になり、積極的に関与していなかったという。他方、他の参加国は、SAARCを域内の経済や交流拡大の機会として期待を寄せていた。
社説は、「インドとパキスタンが互いの敵対関係を地域協力に影響させないことに同意しない限り、低迷するSAARCが復活することはあり得ない」との見方を示す。特に、「インドが一貫して首脳会議に出席しないことは、由々しき問題だ」と述べ、インドの姿勢を厳しく批判する。
「地域の中心であるインドがファシリテーターの役割を果たす用意がない限り、意味のある地域協力は生まれない。パキスタンをあらゆる面で孤立させるという考えも、見当違いだ」
SAARCの現状を考えれば、毎年、数多くの会議を定期的に開催しているASEANは、地域組織としてはかなり活発に機能している方だと言えるだろう。社説は最後にこう訴える。「インドとパキスタンは、最近、第三国スリランカのコロンボでクリケットの試合を行った。なぜ、同じようにニューヨークで会談に臨めないのだろう」。
ネパール紙の嘆きは、しごく真っ当だ。
(原文)
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2023/09/06/asean-aims-for-the-achievable.html
ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2023/09/18/missed-opportunities-1695051932