「偉大な彼はもういない」サッカーの神様、マラドーナ氏を追む
天才と狂気をはらむ英雄の一生をクリケット大国バングラデシュの社説が追悼

  • 2020/11/29

 アルゼンチン出身、サッカー史に名を残すディエゴ・マラドーナさんが11月25日、60歳で亡くなった。薬物依存などスキャンダラスな面もあったが、貧しい家庭に生まれながらサッカーの「神様」にまで駆け上がった人生は世界中の人たちを魅了した。バングラデシュの英字紙デイリースターは11月27日付の社説で、彼の死をとりあげた。

アルゼンチンが生んだサッカーの神様、マラドーナが今月27日、60歳で亡くなった。氏が両親と笑顔で写るポスターの前でセルフィ―を撮っていた(2020年11月28日ブエノスアイレスで撮影)(c) AFP/アフロ

天才の足跡

 バングラデシュでは、クリケットが最も人気のあるスポーツだが、それに次いで人気が高いのがサッカーだという。ナショナルチーム自体は国際舞台で活躍するほどのレベルには至っていないが、プロチームもあり、日本人選手も在籍しているようだ。

 そんなバングラデシュの新聞が、マラドーナ氏の死を悼んだ。彼の影響力の大きさを感じさせる。

 「最も偉大なサッカー選手だったディエゴ・マラドーナ氏が亡くなった。アルゼンチンのマエストロの死を、世界の人々とともに悼みたい。彼の足跡は、間違いなく私たちのなかに生き続けるだろう」

 社説は、マラドーナ氏について「サッカーの天才だった。彼ほどサッカーの世界を変え、インパクトをもたらした選手はいまだかつていなかった」と、絶賛し、「彼の多くの功績のうちの一つ」として、1986年FIFAワールドカップを挙げる。アルゼンチンを優勝に導いたこの大会は、サッカー史に残る有名な試合の連続だった。準々決勝のイングランド戦では、ボールがマラドーナ氏の手に触れてゴールが決まったにも関わらず、反則にはとられなかった。試合後、マラドーナ氏が「ボールに手を触れたが神の許しを得た」と語ったことから「神の手」と呼ばれるようになった経緯を苦々しく思い出す人もいるかもしれないが、そのあとの「5人抜き」ドリブルゴールは、FIFAによりワールドカップ史上最もすばらしいゴールに選ばれた、という。

真のエンターテイナーとして

 さらに社説は、「マラドーナ氏は、アルゼンチンのためだけに活躍したわけではない。1984年から在籍したセリエAのSSCナポリでは、残留争いをするような弱小チームだったナポリを、後にクラブ史上初のセリエA優勝に導くほどの目覚ましい活躍をした」と指摘し、彼が「世界のマラドーナ」であったと強調する。イタリアでは薬物問題やマフィアとの関係、税金の滞納問題なども報じられたものの、SSCナポリはマラドーナ氏の背番号10番をいまだ永久欠番にしている。いかに社会的に「問題児」であっても、マラドーナ氏がいかに尊敬され、愛されていたかを示すエピソードの一つだ。

 また、社説は、マラドーナ氏を「真のエンターテイナーだった」と称賛する。

 「アルゼンチン代表監督として臨んだ2010年のFIFAワールドカップでは、彼自身の戦歴のような成功を収めることはなかったものの、その言動はよくも悪くも話題となり、サッカーファンをおおいに楽しませた。それこそが彼の本質なのだ。彼は真のエンターテイナーである」

 そして、「天才とはそういうものだ」という言葉で、マラドーナ氏の浮き沈みの激しい人生を振り返っている。

 「マラドーナ氏があのようにピッチ外でさまざまな問題行動を起こしていなければ、もっと素晴らしかったのに、と思う人たちがいるかもしれない。しかし、かつて真の偉人たちがそうであったように、天才とは狂気をはらんでいるものだ」「美しいプレーという点で、マラドーナ氏のようにプレーできる選手はいない」

 冒頭で指摘した通り、クリケットが圧倒的な人気を誇るバングラデシュで、南米のサッカー選手がこれほどまでに慕われているとは意外な思いがする。社説は、ただただマラドーナ氏への哀悼を尽くして終わる。

 「マラドーナ氏はアルゼンチンのサッカーの神様として人々の記憶に残るだろう。しかし、それ以外の世界の人々も、最も才能にあふれ、人々を歓喜させたスポーツ選手として、彼を決して忘れはしない」

 

(原文: https://www.thedailystar.net/editorial/news/the-great-man-no-more-2001717)

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