アジア紙が占う世界的な「選挙イヤー」の行方
言論弾圧などで失われた若き有権者の信頼を、政治は取り戻せるのか
- 2024/2/3
2024年は「選挙イヤー」だ。1月のバングラデシュの総選挙、台湾の総統選と議会選に始まり、11月の米大統領選にいたるまで、世界各地で国政選挙が実施される。国際情勢に大きく影響する選挙が目白押しとなり、注目すべき1年になりそうだ。
自由で公正とはいえない選挙も
シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは2024年1月1日、元日の社説で「ようこそ、エキサイティングな選挙イヤーへ」と題した記事を掲載した。
社説は、今年は「2048年までのうちで最大の選挙サイクル」だと位置付ける。1月にはバングラデシュと台湾、2月はパキスタンとインドネシア、3月はロシア、5月はインド、6月はメキシコ、そして11月はアメリカで、それぞれ大きな選挙が行われる。社説は「世論調査は、世界の政治を占う風見鶏の役割を果たすだろう」と述べ、それぞれの選挙戦について論じた。
同じ東南アジアのインドネシアについては、「インドネシア大統領選の勝者は、インド太平洋地域における大国間の対立の中で、ASEANを安定と結束のかなめとして維持する、という任務を引き継ぐことになる」と指摘。また、1月13日の台湾の総統選と議会選挙については、「中国が、民主化が進む離島の台湾との関係をどう評価するかを左右する」とコメントした。3月のロシア大統領選では、プーチン氏の勝利が確実視されていると指摘し、「ウクライナ侵攻による国内および国際的なコストや、痛みを伴う現状が今後も続くだろう」と述べた。
また、1月7日のバングラデシュの総選挙については、社説は「いくつかの国の与党政権は、政敵への対応において、自由で公正とはいいがたいという批判」がある、としたうえで、「バングラデシュはその顕著な例だ」と指摘。また、違いはあるものの、インド・モディ政権の強硬なナショナリズムについても「宗教的少数派などを犠牲にしていると批判されている」とし、強権化するアジア諸国において、自由で公正な選挙の実現が難しい現状について言及した。
シンガポールでは、2025年11月に総選挙が予定されている。社説は、「シンガポール国民だけで世界情勢の行方を決めるわけではないが、自分たちの一票が国の将来にとっていかに重要であるかを知り、行動するべきだ」と述べ、世界の動向を注視するように呼びかけている。
ボイコットや不正 一票の意味を見失った若者たち
一方、2024年1月7日に総選挙の投開票が行われたバングラデシュでは、若者の政治離れが問題視されている。1月8日付の英字紙デイリースターは、「若い有権者たちの無関心」と題した社説を掲載した。
バングラデシュの総選挙は、主要野党が選挙をボイコットする中で実施され、与党のアワミ連盟が勝利した。投票率は約40%で、前回2018年の80%超から大幅に下がった。
社説は、まず「今回の選挙では若い有権者の関心が低かった」と指摘したうえで、次のように憂いを表明する。
「歴史を振り返ると、国家が危機に直面した際は若者が立ち上がって運動を導き、基本的権利のために戦う救世主となってきた。それだけに、こうして若い市民の政治離れを目の当たりにすると、未来が心配になる。若い有権者の消極的な態度は、緊急に対処すべき厳しい現実だ」
バングラデシュでは、2014年の選挙でも主要野党がボイコットをし、2018年の選挙では大規模な不正投票があった。「若い有権者にとっては、またもや主要野党が不在なのかという思いが募り、自分の一票に意味があるかどうかを見出せない選挙になってしまったのだろう」と、社説は分析する。
さらに、選挙だけでなく、自由な言論自体が抑圧されている現実についても取り上げ、「最近の調査によれば、この国の若者の72%がソーシャルメディアで自由に意見を述べることに危険を感じているという。特に公立大学では、学生による政治が政党政治に取って代わられ、与党の学生フロントが事実上すべてをコントロールできるようになっている」と、強い懸念を表明している。
最後に社説は、「政治は若者たちの信頼を取り戻さなければならない。若者のために、健全な政治環境を確保することが必要だ」と、訴えた。投票率が前回選挙の半分にまで激減した事実を見れば、そこに若者を中心とする国民が「不在」であることは明らかだ。
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バングラデシュに在住している編集部の友人は、今回の選挙について「まるでつまらない」と言った。社会の雰囲気は、憤りや抵抗を通り越して「無関心」だったという。この傾向が世界中に広がらないように願うばかりだ。
(原文)
シンガポール
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/welcome-to-an-exciting-year-of-elections
バングラデシュ
https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/are-we-listening-the-young-voices-3514356