ムスリムから見た「バグダディの死」
バングラデシュの英字紙が問いかける3つの問い
- 2019/11/1
10月27日未明、米国がシリア北西部のトルコ国境に近い村に潜伏していた「イスラム国(IS)」の最高指導者、アブバクル・バグダディを殺害したと発表された。イスラム教国家であるバングラデシュの英字紙デイリー・スターは、10月29日付の社説でバグダディの死について採り上げ、「ムスリムとして何を問うべきか」と論じている。
「史上最悪のテロリスト」
冒頭で同紙は「世界、とりわけムスリム世界は、バグダディの死の知らせに安堵のため息をついていることだろう」としており、空気感が伝わる。そのうえで「われわれは、このような冷酷な人間を増長させ、史上最も悪名高いテロリストへとさせてしまったのか、という難しい質問について考えなければならない時がきた」として、ISの問題をムスリムの視点からとらえようと試みる。
社説は、バグダディについて考えるための視点を3つ挙げる。①人間としてのバグダディ、②彼が率いた組織、③彼のカリフとしての哲学、である。
「まず、バグダディは人間として残酷であり、多くの無実の人々を殺害した。犠牲者の多くが彼自身の仲間であったことも特徴的だ。彼が率いた組織は、イスラムの教えをゆがめ、多くの人たちを宗教の名のもとに巧みに操った。それは私たちが知っているイスラムのカリフたちの教えとも、イスラムの哲学そのものとも、まるで違うものだ。しかし、バグダディの哲学を多くの人たちが信じ、その行動に合流した。バングラデシュを含む遠くの国々の人たちまでもが彼のイデオロギーに賛同し、この意味のない戦いに身を投じた」
未来のために
ここで社説は、ムスリム全体の問題として、問いを投げかける。「なぜ、このように、明らかに反イスラムであるゆがんだ哲学の広がりを許したのか。なぜ、ムスリム社会は、このような考え方に抵抗し、広がることを防げなかったのか。なぜ、ムスリム社会は、バグダディに抵抗して立ち上がらなかったのか」。たたみかけるように問いかける文章は、単なる「問い」というよりも、むしろ激しい後悔や憤りに近い。そして再び社説は強調する。「難しい問いであるが、今が、このことを考える時である」
また、社説は「我々のように、多様性やさまざまな考え方を受け入れ、文化の融合や受容を旨とする社会にも、バグダディの急進的な考え方がなぜ浸透したのかについても、深く考えなくてはならない」と、課題を重ねる。
この社説には、答えはない。しかし、バグダディの死だけでは、ISのもたらしたさまざまな問題が決して解決しないことをこの社説は示唆し、バグダディと同じイスラム教徒として、受けとめ、考えようとする姿勢が伝わってくる。社説は最後にこう述べている。「われわれは、こうした問いに答えを見つけなければならない。今後、また同じような道に人々が陥ることがないよう、根源的な理由を取り除いていかなければならないのだ」
(原文:https://www.thedailystar.net/editorial/news/baghdadis-death-relief-1819906)