新型コロナ再拡大 東南アジア諸国の対応力は
コロナ禍からの回復力の違いに浮き彫りになる格差
- 2024/1/22
新型コロナの感染拡大が収束を見せ、日本では「5類感染症」に移行して初めての年末年始を迎えた。コロナ禍は「過去のもの」になりつつあるが、本格的な冬の訪れと共に、欧州やアジア各国では再び感染が拡大傾向にあるという。
今こそ生きるパンデミックの教訓
シンガポールでは2023年11月後半から感染が再拡大しており、翌12月半ばには、公立病院の病床稼働率が100%に達した。これを受け、シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは2023年12月14日付で、「新型コロナの感染再拡大に過剰反応をするな」と題した社説を掲載した。
社説は、新型コロナについて「最もやっかいな感染症」だとする一方、「すでに風土病となっており、個人の予防策、社会的な配慮、医療システムの備えによって十分に対処できる」と断言する。
なかでも、新型コロナの感染の再拡大を受けて注目すべき点は医療制度の改善だ、と社説は指摘する。「新型コロナのパンデミックを経験したことにより、シンガポールの医療システムは厳しく試され、その能力を強化してきた。そして今、その教訓が生かされ、ウイルスにどう対応すべきか、迅速に理解できている」
さらに社説は、パンデミックからの真の回復力を高めるためには、医療インフラを適切に整備するだけでなく、集団行動によって生み出される「社会的な回復力」も重要だと主張する。これには、例えばソーシャルメディア上の偽情報を見抜くリテラシーを身に付けることのほか、検査キットの買いだめのようなパニック購買に陥らないことなどが含まれるという。社説は、「過剰反応は理性を恐怖に向かわせ、解毒剤にはならない」と述べ、冷静な対応こそが、パンデミックを防ぐ手段だと強調した。
欧州からの支援金 いまだ労働者に届かず
バングラデシュの英字紙デイリースターは、2023年12月8日付の社説で、コロナ禍で深刻な影響を受けた労働者への補償がいまだに実施されていない問題を取り上げ、「感染症が再拡大しつつある一方、人々は依然として社会的な打撃から回復していない」と、告発した。
社説によると、新型コロナウイルスが輸出産業で働く人々の生活に大混乱をもたらしてから3年が経つにも関わらず、バングラデシュ政府は、労働者への補償として海外ドナーから寄せられた資金をいまだに支払っていないという。バングラデシュでは、輸出用衣料品の生産を中心とした縫製業セクターが主要産業として国を支えてきた。しかし、海外のバイヤーからの注文はパンデミックによってキャンセルまたは延期が相次ぎ、国内労働者の大量解雇や経済的困窮など、深刻な影響を招いた。欧州連合やドイツ政府は縫製業セクターで失職した労働者に支援金を拠出したが、労働者たちの手にはまだその一部しか渡っていないと社説は糾弾する。
「私たちは労働省に対し、この問題に早急に対処するように求める。この支援金は、あくまで労働者のものなのだから。支払いがこれ以上遅延すると、労働者に不利益が与えるだけでなく、ドナー国の好意も無駄にすることになる」
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多くの死者を出し、社会活動、経済活動に深い爪痕を残した新型コロナのパンデミック。各国の紙面からは、その影響からの「回復力」にも格差があることが見て取れる。医療インフラが改善され、感染の再拡大にも「パニックになる必要はない」とシンガポールの社説が呼びかける一方、バングラデシュは、援助を受けながらも、いまだに経済的な影響を克服できていない。感染症がもたらす長期的な課題が改めて浮き彫りになっている。
(原文)
シンガポール:
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/don-t-overreact-to-rising-covid-19-infections
バングラデシュ: