インドの英字紙が死者数の政治的利用を警戒
正確な実態把握と公開で新型コロナの検証を

  • 2021/8/14

 新型コロナの変異株「デルタ株」が見つかったインドでは、今年5月頃に感染者が急増。医療崩壊が起き、患者が廊下まであふれる病院や、医療用酸素が足りていない様子を伝える報道が世界を駆け巡った。今、インドの感染者数は急速に減少傾向にあるが、新型コロナによる死者数については、「少なすぎるのではないか」という指摘もある。7月22日のインドの英字紙タイムズ・オブ・インディアでは社説でこの問題を採り上げた。

(c) Yogendra Singh / Pexels

政府、感染状況の把握を強調

 インド政府の発表によると、新型コロナウイルスに感染してこれまでに亡くなった人数は、累計約42万人だという。しかし、共同通信によれば、米研究機関である世界開発センターは7月20日、新型コロナによってインドで6月までに亡くなった人数の累計が、政府発表の約10倍に相当する400万人に上るという推計を発表した。デルタ株によって感染者が急増したことで、政府が感染状況の実態を把握しきれておらず、正確な感染者数や死者数を調べることができていない可能性が示唆されている。
 しかし、インド政府は同日、この発表を否定するかのような見解を示したと社説は伝えている。
 「インド政府は、新型コロナの第二波について、酸素不足をはじめ、検査や治療が行われなかったことにより亡くなった者はいないと発表した」
 新型コロナにより死者が出たこと自体を否定するものではないが、混乱の中で死者数を把握していなかったという指摘を正面から否定した形だ。
 政府のこの主張について、社説は、「これは実際にわれわれが体験していることとは明らかに異なる。2021年4月から6月にかけて、わが国は新型コロナの感染拡大によって国土の多くの部分でロックダウンが実施され、医療崩壊が始まって最悪の時期だった」と指摘。その上で「その3カ月の間に23万5000人が亡くなっているが、これはそれ以前の死者数の56%を占める」と述べ、混乱期の死者がこれまでより明らかに多かったとしている。

死者数を過少に評価か

 社説は言う。「果たしてインドは、新型コロナによる死者数を少なく数えているのだろうか、という疑問がわく」。
 社説によれば、死者数を把握するための統計には、2種類あるという。最もよく引用されているのは、市民登録システム(CRS)で、国が管理する死亡者数の記録はこの数値である。社説は「このデータは、死因が新型コロナだったかどうかまで特定するものではないが、パンデミックがあった2020年から2021年の死者数は、従来に比べて明らかに多い」と指摘する。一方、これに代わる指標として、インド政府の人口調査であるサンプル登録システム(SRS)もあるが、こちらは2019年までの人口データしかないという。
 社説は、「死者の数はしばしば政治的に利用され、問題の深刻さを強調しないように、あえて少なく数えられることもある。実際、新型コロナによって亡くなったと登録しようとすると、そのガイドラインは非常に厳しい」として、新型コロナによる死亡が正確に登録されていない可能性を指摘する。そのうえで、「もしそうであれば、パンデミックの第二波で犠牲になった人々の家族にとって非常に不公平だ。彼らは、正直に数えられ、正確な統計に加えられなければならないからだ」と、主張する。そして、死者数を正確に把握するためには、国を挙げて人口を調べ直す必要があると訴える。
 私たちは、医療用酸素が足りずに苦しむインドの人々の映像をニュースで何度も見た。しかし、インドで今、どんな変化が起きているのか、日本には広く伝わっていない。別のインド紙の報道などによれば、「コロナワクチンを接種していないインド人の62.3%がコロナに対する抗体をすでに持っている」というインド医学研究評議会の研究発表が報じられている。1日あたり40万人を超えていた新規感染者は、7月下旬には10万人以下にまで減っているという。
 数字や統計がすべてではないものの、正確な数字の把握と公開は、さまざまな検証に不可欠だ。コロナ禍の状況を正確に記録する余裕がない途上国も多く、「新型コロナとデータ」は、ウィズコロナの時代の新たな課題となっている。インドが最悪の時期を切り抜けたとしても、それがすべての終わりではないことは、誰もが知っている。同じ状況を二度と起こさないために何ができるか。インドで正確な統計や状況の把握、そしてその公開が実現すれば、それは人類全体への貢献にもなる。

 

(原文:https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/politics-of-death-there-should-be-a-nationwide-demographic-survey-to-truly-measure-covid-fatalities/)

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