ミャンマーへの人道的責任を果たせ
軍政下を生きる人々の、音なき痛みが聞こえるか

  • 2023/2/19

 ミャンマー国軍がクーデターで実権を握ってから、2023年2月1日で丸2年が経った。その間、国軍の支配に抵抗する国民は殺害され、逮捕され、あるいは攻撃され続けている。東南アジア諸国連合(ASEAN)をはじめ、国際社会は国軍への批判を繰り返してきたが、いまだ何の効果も見えていない。

クーデター勃発からちょうど2年になる2023年2月1日、バンコクのミャンマー大使館前には人々が集まり、スローガンを叫んで軍政に抗議した。 (2023年2月1日撮影) (c) ロイター/アフロ

人権弾圧に、毅然とした対応を
 タイの英字紙バンコクポストは、2023年1月3日の社説で、国境を接する隣国としての「人道的責任」を説いた。
 社説はまず、今年ミャンマーで選挙が実施されることに触れ、「初めから結果が決まっているようなこの選挙で、国軍側が勝てば、西側諸国はミャンマーに対する圧力を強めるだろう。ミャンマーと2400キロもの国境を接するタイにとっても、2023年は、ミャンマーへの戦略を考え直す年になる」と述べる(編集部注:その後、ミャンマー軍が2023年2月1日に非常事態宣言の6カ月延長を発表したことに伴い、総選挙も先送りされる見通し)。
 そして、隣国ゆえに複雑で微妙なタイの立場について、次のように表現した。
 「タイは、国軍に最後通牒を突き付けることも、反国軍勢力を支援することも、できずにいる。しかし、タイには、ミャンマーの支配者や少数民族勢力と常に話し合いを重ねてきた歴史がある。タイとミャンマーの国境は、多くの民主活動家や少数民族勢力の聖域となり、市民たちが行き交う場でもある」
 しかし社説は、こうしたどっちつかずの姿勢も限界に来ている、と主張する。ミャンマーで何が起きているのか人道的な側面から見ると、どちらに非があるかは明らかだからだ。
 「タイには、もしミャンマー軍が自国民に対する弾圧を強めるならば看過しないという姿勢を示す人道的な責任がある。クーデターによって軍の支配が始まってから、これまでに少なくとも2273人の国民が殺害され、15万4000人の市民が逮捕された。タイ政府はこの2年間、隣人を理解しようとしてきたものの、いまだに何の成果も上げていない。そろそろこの危機に対して人道的なアプローチを始める時に来ている」
 そのうえで社説は、具体的な方法の一例として、「民主活動家の送還を拒否することを公式に発表するべきだ」と提言し、「ミャンマー国軍は、民主活動家や反国軍活動家を処刑している。彼らをミャンマーに送還することは、重大な人権侵害だ」と訴える。
 実際、ミャンマーと長い国境を接しているタイは、民主化問題、難民問題、少数民族問題など、ミャンマーの国内情勢に常に直接的な影響を受けてきた。しかし、人権弾圧については毅然とした態度を示すべきだ、と社説は主張する。

国軍との接近は、ヒトラーと友人になるようなもの

 タイを拠点に、民主活動家らを支援するミャンマーの英字メディア、イラワジは、2022年12月9日の社説で、ミャンマー国軍によるクーデターは「愚かだ」と断言。2年前のクーデター以降、「東南アジアで最も資源の豊かな国であるミャンマーは、瞬く間に大混乱に陥り、失敗国家になってしまった」と嘆いた。

 社説は、国軍が中国製やロシア製の武器を使って、自国民である反国軍勢力を攻撃している、と指摘し、「国軍のふるまいを見ると、まるで外国による侵略を受けているようだ」と非難した。さらにミャンマー国軍をとりまく国際関係について、以下のように述べる。「ASEAN地域において、国軍は完全に孤立した。事実、ASEANはミャンマー国軍と国軍関係者を会議などから締め出している。国民による抗議運動、武力による抵抗に加え、国際社会からも拒絶された国軍のミン・アウン・フライン総司令官は、ロシアのプーチン政権に接近し、さらに中国との関係維持にも努めた」
 ミャンマーとロシア、中国との接近について、社説はこう分析し、呼びかける。
 「中国はミャンマーの国軍に対して、経済・軍事の両面で支援を続けている。そして、ミャンマーの中国への傾倒を懸念したインドも、国軍に接近している。これらの国々は、当然のことながら、ミャンマー国民から非難されている。ミャンマー国民は、苦しみと集団トラウマと抑鬱の中にあるのだ。ロシアよ、中国よ、インドよ。ミャンマー国民の、音なき痛みが聞こえるか」
 しかし、どの国も本心からミャンマー軍を支持しているわけではない、と社説は述べる。

 「世界中の成熟した政治家たちはみな、この国軍の支配が長くは続かないことを知っているし、国軍に与することは得策ではないとわかっている。それはヒトラーと友人になるようなものだ」
 そして社説は、米国がミャンマー軍に対する制裁を強化したことなどに触れ、「西側諸国の支援は心強い、こうした友人たちの後押しは大きな力になる」と、感謝の意を示した。
 最後に、社説はこう締めくくった。

 「この地で残酷な国軍に立ち向かい、戦い続けるのは、米国ではなくミャンマーの人々だ。国軍による支配が続けば、ミャンマーの人々は永遠に、殺人的な軍人の奴隷となる。愚かなクーデターだった。ミン・アウン・フライン総司令官は国民から力を奪い取ったが、銃や戦闘機をつかっても、国民と国家を制することはできていない。彼は勝てない」

 クーデターから2年が経った。終わらないミャンマー国民の苦悩は、「遠く」にいる私たちの耳にはもうあまり届かなくなっている。耳を澄まそう。そして、声なき声を聞こう、と思う。

(原文)

タイ:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2473957/change-tack-on-myanmar

ミャンマー: https://www.irrawaddy.com/opinion/editorial/it-was-a-stupid-coup-thats-why-the-myanmar-junta-will-fail.html

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