カンボジアの社説「コロナ禍を保健医療改善の好機に」
米中対立の中で新中国に迫られる舵取り
- 2021/8/21
世界で新型コロナが猛威を奮いだした2020年、カンボジアは感染拡大が抑制され、死者もいないという珍しい国だった。しかし、今年2月に市中感染が始まり、抑制できないまま拡大を続け、7月末現在の感染者は7万5000人を超えた。7月26日付のカンボジアの英字紙クメールタイムズは、社説でこの問題を採り上げた。
最悪の感染状況
カンボジアの現在の感染急拡大は、インドで見つかった変異株「デルタ株」の影響が大きいとみられている。しかし社説は、「カンボジアでは、新規感染者がこれまでの市中感染の拡大なのか、新たなデルタ株によるものなのか、区別をつけるのが難しいという問題を抱えている。当初はゼロだった死者はいまや3桁となり、カンボジアも他の国と同様に新たな感染拡大と苦闘している」と、記す。
一方で、「希望のある側面」として社説は、ワクチン接種が進んでいることを挙げる。
「カンボジアでは中国のワクチンを中心に接種が進んでおり、カンボジア人だけでなく、在留の外国人に対しても接種をしている。さらに、日本と米国からもついにワクチン供与が決まった。政治的なスタンスとは一線を画し、人々の命を救うために国々が協力するのは素晴らしいことだ」
カンボジアは東南アジア随一の親中派として、米国ともしばしば対立してきた。ただし、米国のような大国と完全に敵対することは、カンボジアにとって得策ではない。米中対立の中にあって、親中派であっても、小国なりのバランスを保つことがカンボジアの政治的スタンスだ。
注目された女性たちの活躍
社説は、コロナ禍でのリーダーシップにも言及する。特に、「コロナ禍にあって、意外にも女性たちの活躍がみられた」という指摘はユニークだ。
社説が挙げたのは4人の女性官僚たちだ。一人は、保健省の報道官としてメディアにたびたび登場しているオウ ヴァンディン氏だ。同氏は、国の新型コロナ対策やコロナ感染状況の発表の際に、常にメディアの矢面に立ってきた。また、ヨウ サンバット氏も、保健省の財政面と医療資材の管理を担当している。また、世界保健機関(WHO)のカンボジア代表も、リー アイラン氏という女性だ。さらに、若者グループでは、新型コロナ感染者の治療センター設置に尽力したとして、フン・セン首相の義理の娘にあたるピク チャンモニー氏の名前も挙げられた。
こうした女性たちの活躍をたたえる一方、社説は、保健省と地方行政に対しては「コロナ禍への対応が不完全だ」と、厳しい目を向ける。
「保守的な仕事は、危機的状況には適応できない。保健省の対応のまずさや新型コロナのラピッド検査セットの配布の遅れは、フン・セン首相も苦言を呈するほどだった」
そのうえで社説は、「コロナ禍はカンボジアの保健医療を改善する絶好のチャンスだ」と、指摘し、次のように述べる。
第一に、地方の医療施設を改善する好機であること。衛生環境や医療設備を見直し、全体の水準を上げることができれば、地方の人々がわざわざ都心の大病院まで来なくても、地元で同等の治療を受けられるようになる。第二に、医療人材の不足が深刻な課題であること。今回のことを教訓に、医療人材の育成について抜本的な改善が急務だと指摘する。そして、第三に、保健省組織の改革も必要だ。
カンボジアの新型コロナ感染拡大は、人口100万人比にすれば、タイやベトナムより高い数値を示している。それだけ深刻であるということだ。親中派として知られるため、米国や日本の援助はかなり遅れをとった。コロナ外交などと言われるが、地政学的な対立を超えた人道的な視点が必要になっていることは、社説の指摘する通りである。
(原文https://www.khmertimeskh.com/50901343/covid-19-in-cambodia-provides-impetus-for-long-term-reform-in-health-sector/)