アジア各国で総選挙、有権者の声の行方は
政治に無関心な若者、独裁政権下で投票先を失った人々

  • 2023/8/11

 東南アジア各国で、重要な選挙が続いている。5月14日にタイで実施された総選挙では、多くの予想を覆し、野党の「前進党」が第一党に躍進。軍出身のプラユット首相は政界引退を表明した。また、7月23日にはカンボジアで5年に1度の総選挙が実施された。さらに2024年には、インドネシアで大統領選と総選挙が行われる。問題は、どの国も民主主義をめぐる課題を抱えていることだ。有権者の声に耳を傾けるためには、どうすればいいのか。今、各国で問われている。

(c) Element5 Digital /pexels

若者の心をつかめ!インドネシア選挙戦のカギ 

 インドネシアの英字紙ジャカルタポストは、7月8日付で「若き有権者の声を聞け、さもなくば滅びる」と題した社説を掲載した。
 社説によると、インドネシアでは、2024年に予定されている大統領選・総選挙の有権者のうち、約1億1400万人が40歳未満。そのうち6800万人は、1980年代初頭から1990年代半ばまでに生まれた「ミレニアル世代」で、残りの4600万人は、それ以降に生まれた「Z世代」だという。
 社説は「政治に無関心とされるZ世代の有権者の割合がここまで高くなるのは初めて」だとして、有権者の若さに注目する。その一方で、「2022年11月に実施されたアメリカの中間選挙では、18歳から29歳の有権者のうち27%しか投票しなかった」と指摘し、若い有権者を取り込むことが「至難の業である」ことを危惧する。
 政党側も問題意識を共有しており、各政党とも選挙キャンペーンの中核に、若者や初めて投票する有権者を据えている。実際、こうした「若者志向のリブランディング」は、一部の党では成功しているように見えるという。しかし、ソーシャルメディアを活用したり、若者に人気のある政治家をキャンペーンのリーダーに起用したりするだけでは、若い有権者の心をつかむことはできない」と、社説は指摘する。
 そのうえで社説は「若い世代が抱える課題に取り組むことが重要だ」と主張する。例えば、環境や気候、AIの広がりが社会にもたらす影響といった地球規模の懸念に加え、若者たちは、よい仕事に安定的に就けるのか、適切な医療を受けられるのか、といった将来への不安を抱えているためだ。さらに、「政治家は、ミレニアル世代とZ世代が、大都市に住み、高学歴で、ラテを片手にインスタグラムをスクロールするような若者たちだけではないということを念頭に置くべきだ。都市部から一歩外に出ると、生活費を稼ぐために日々奮闘し、子どもや年老いた両親を養っている若者たちが何百万人もいるのだ」と、釘を刺す。
 社説は、インドネシアで2019年に行われた選挙の投票率が80%と「驚異的に高い水準」だったことに希望を寄せ、「各政党は若い有権者を失望させることでこの記録に傷をつけたくはないはずだ」と、述べている。

野党不在のカンボジア総選挙、批判できぬメディア

 カンボジアでは、7月23日に総選挙が実施された。カンボジアは、前回の2018年の総選挙で欧米諸国などから批判を浴びた。選挙を前に、当時の最大野党勢力が「国家転覆罪」などで排除され、フン・セン首相率いる与党・カンボジア人民党が125議席すべてを独占したからだ。今回の総選挙でも、排除された最大野党の流れをくむとされるキャンドルライト党が、「書類不備」を理由に選挙への参加を認められず、全国規模で候補者を擁立できる野党が不在のまま、選挙が実施されることになった。
 カンボジアの英字紙クメールタイムズは、今回の総選挙に先立ち、7月13日付の社説で、「2023年カンボジア総選挙、敗者の戦略」と題して、国外から反与党キャンペーンを繰り広げる野党勢力を批判した。
 社説は、野党勢力の指導者たちについて、「先頭に立つべきリーダーは自分しかいないと思い込む、いわゆる “主人公症候群” にかかっており、野党指導部の中で次世代の政治家を育てることができていない」と批判。さらに、10年前の2013年に総選挙が実施された際、野党勢力が123議席のうち55議席を獲得したにも関わらず、選挙に不正があったと訴え、結果を受け入れなかったことについて、「野党はただ権力を欲しがり、与党を排除したいだけだ」と、手厳しく断じた。
 フン・セン政権による野党勢力の弾圧に対しては、国際社会から非難の声が上がっており、日本政府も懸念を表明している。しかし、その一方で、カンボジア国内では、国家転覆罪や名誉棄損などを恐れるためか、メディアで野党を支援する論調は見られない。上のクメールタイムズの社説も、この文脈で読み解く必要がある。
 前回、野党不在のまま2018年に行われた選挙では、「無効票率」が異様に高かった。有権者たちは、監視の目を恐れて投票所には足を運んだが、投票したい党がいない状況に対する抗議の意思を、無効票という形で表したのだ。今回の選挙で、有権者たちの「声なき声」はどのような形で示されたのか、あるいは、反発する思いは水面下に押し込められたままか。国際社会はしっかりと行間を読む必要がある。

(原文)
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2023/07/07/listen-to-youth-voters-or-perish.html

カンボジア:
https://www.khmertimeskh.com/501306879/cambodias-election-2023-strategies-of-the-loser/

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