庶民の台所、ただ排除するのではなく
屋台街の再開発が示唆するインドネシア社会の行方

  • 2020/2/10

 アジアの屋台めし。それは在住者にとっても、観光客にとっても、その国の「素顔」を見ることができる貴重な場所だ。近代的なモールや高級レストランにはない魅力がある。その国の多くの人々にとってみれば、まさに日常生活に欠かせない台所だ。

ところが、経済成長を遂げるアジア各地が都市化を遂げるなかで、こうした屋台を「目ざわりだ」とする声が上がっている。インドネシアの首都・ジャカルタでも、歩道上で営業する屋台を「排除するべきだ」という議論があるという。2月1日付けのジャカルタ・ポスト紙は社説でこの問題を採り上げた。

インドネシアの首都ジャカルタ路上で営業する屋台と、食事を楽しむ人々 (c) Alamy/アフロ

ランチタイムににぎわうのは

 社説によると、「歩道で営業する屋台を排除せよ」という議論は、インドネシア・ソリダリティ党(PSI)と、ジャカルタ歩行者連合が、ジャカルタ行政当局に要求したことから始まった。彼らは、歩道は歩行者専用である、と主張した。

 これを受け、社説は次のように述べる。「もし、ジャカルタ行政当局がこの要求を受け入れるのなら、彼らは、ジャカルタのホワイトカラー、そしてブルーカラー労働者たちに手の届く食事が確保されていることと、こうした零細ビジネスを営む人々が稼げることを保証しなければならない。ランチタイムを見ればわかる」「モールやフードコートよりも、屋台がひしめくオフィス街の方がずっとにぎわっている」

 もっとも、社説は「屋台をそのまま歩道に残せ」と言っているのではない。こうした場所で日銭を稼ぐいわゆる「インフォーマルセクター」の存在から目を背けることなく、彼らを積極的に巻き込みながら再開発を進めろ、と言っているのだ。

インフォーマルセクターを取り込め

 「ジャカルタには、その好例がいくつもある」と、社説は言う。

 たとえば、昨年12月に開業したばかりのThamrin 10 フード・アンド・クリエイティブパークは、もともと8000㎡の駐車場だった場所が、屋台街を含むエンターテインメント施設として再開発された。54の屋台と、7つのフード・トラックが集められている。

 社説によると、ジャカルタには、このほかにも、インフォーマルセクターである屋台を排斥するのではなく、うまく取り込みながら、安価な食事が楽しめる場所へと再開発が進められた例がいくつもあるという。

「これらはいずれも、地元で営業していた屋台主たちにサービストレーニングや水道設備を提供するなど、屋台をうまく包摂しながら再開発が進められた事例だ」「こうした場所には、こぎれいなモールに飽きて目新しい雰囲気を楽しみたいと訪れる客の人気を集めている」。

 かつては、警棒を持った治安担当者が違法な屋台主を追い払う光景が街のあちこちで見られ、袖の下をはじめ、さまざまな金の支払いが求められていたのが実態だった。

 社説は言う。「こうしたイメージを過去のものにしなくてはならない。警察官を含む治安維持の担当者らが、相当な金額を屋台主から定期的に受け取りながら、一方で彼らを目障りだとか、罰するべきだなどと言うのを、人々はもはや受け入れないだろう。インフォーマルセクターの就労者は、フォーマルセクターのそれよりもずっと多いのが現実だ」

インフォーマルセクターをどのように、フォーマルセクターへと取り込み、変換していくか。屋台街の再開発が示唆する最善の方法は、「排除」ではない、ということだろう。

 

(原文:https://www.thejakartapost.com/academia/2020/02/01/better-space-for-cheap-food.html)

 

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