危機に瀕する東南アジアの民主主義
「内政不干渉」の原則を掲げてきたASEANの苦悩

  • 2023/8/11

 7月23日、カンボジアで5年に一度の国民議会選挙(125議席)が実施された。投票率は84.58%。817万7000人が投票し、フン・セン首相が率いる与党・カンボジア人民党が圧勝した。野党勢力を「排除」しての勝利には、国際社会から懸念の声も上がった。また選挙後、フン・セン首相は辞任を発表。長男のフン・マネット氏が後継となることが発表された。

フン・セン首相の息子で軍人の、フン・マネット氏(カンボジア人民党)が、プノンペンの投票所の外で、インクのついた指を掲げる。フン・セン首相は、今後5年間の首相在任期間を、自身の長男であるフン・マネット氏に任せることを表明しており、フン・マネット氏は1カ月以内に首相に就任する見通しだ(首都プノンペンで、2023年7月23日撮影) (c) AP/アフロ

カンボジア独裁維持、国内メディアは「民主主義的」と賞賛

 カンボジアの総選挙は、今回は18政党が参加して実施された。各メディアの速報によると、与党の人民党が125席のうち120議席を獲得し、王党派のフンシンペック党が残りの5席を獲得した。

 3日後、フン・セン首相はテレビで演説を行い、長男のフン・マネット氏に首相の座を引き継ぐ意向を明らかにした。自らは首相を辞任し、今後は議員と人民党の党首としての活動を続けるという。フン・マネット氏の首相就任は、8月22日と報じられている。

 フン・セン首相は演説の中で、辞任の理由を「発展の基礎となる長期的な安定を産み出すため」と語った。また、次期首相となるフン・マネット氏の仕事には関与しない、と述べ、長男への「世襲」については、「彼は選挙に立候補しており、民主主義の制度にのっとっている」と強調した。

 カンボジアの英字紙クメール・タイムズは、7月24日付の社説で、この総選挙について「カンボジアの民主主義の、揺るぎない回復力を示す選挙だった。民主主義の道をまい進するという決意が示された」と賞賛し、「与党内の派閥争いや権力闘争はあるものの、国益のために党内の結束は維持されるだろう」と伝えた。

 そのうえで、カンボジアが直面する課題として、「法の支配を堅持し、権力が集中しないようにチェックアンドバランスの仕組みを確立して、より国民の期待に応えるサービスを提供する必要がある」ことを挙げた。また、最も困難な問題点は、汚職との闘いであるとも指摘した。

ASEAN議長国は「カンボジアの選挙は茶番】だと批判

 一方、カンボジアの選挙結果について批判したのは、インドネシアの英字紙ジャカルタポスト紙だ。7月26日付の社説では「ASEANの病める民主主義」と題した記事を掲載した。

 社説は、カンボジアの総選挙について、「フン・セン政権は、選挙前に大学生や民主活動家、政敵を逮捕するなどの嫌がらせをした。カンボジアで人権擁護活動家や野党勢力が執拗に攻撃されていることを受けて、東南アジアの国会議員たちは記者会見を開き、『今回の選挙は茶番であり、国際社会は正当化してはならない』と訴えた」と、極めて厳しい表現で批判した。

 また、5月に総選挙が行われた後も混迷が続いているタイや、クーデター後、軍による支配が続いているミャンマーにも言及し、「ASEANは今、加盟10カ国のうち3カ国で民主主義が著しく後退し、底辺にある状況を目の当たりにしている」として、「ASEANにおける民主主義の行方に警鐘が鳴らされている」との見方を示した。

 社説は、「ASEANに加盟しているこれらの国々で民主主義が枯れつつあることについて、他の加盟国が直接的に批判することはないだろう」と推察する。ASEANはもともと「加盟国の内政には干渉しない」という原則を掲げてきたためだ。しかし社説は、「この地域を苦しめている不穏な現実から我々はいつまで眼をそむけ続けていられるだろうか」と疑問を呈し、事態の深刻さを強調した。

 インドネシアは今年、ASEANの議長国として、これらの国々の問題に直面している。社説は、「この地域の新たな問題について、よい解決策を提示することは確かに簡単ではないだろう。しかし、民主主義が崩れ去るのを黙って見ているのは間違いだ」と、主張している。

 

(原文)

カンボジア:

https://www.khmertimeskh.com/501329606/cambodias-resilient-democracy/

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2023/07/26/aseans-ailing-democracy.html

 

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