イスラエルを絶対支持するドイツで制限される「言論の自由」
「法治国家」の二重基準の行方は
- 2023/11/24
イスラム教徒への厳しい目
パレスチナ系住民の発言に対する監視も厳しい。ナンシー・フェーザー内相は11月2日、パレスチナ囚人連帯ネットワーク「サミドゥン」の活動を禁止すると発表し、同月23日未明には、関連施設が警察の家宅捜索を受けた。パレスチナへの連帯を示しているように見せかけて、イスラエルとユダヤ人に対するプロパガンダを広めていたという容疑だ。ハマスとの関係を疑われるパレスチナ支援組織は、厳しい目で見られている。
2017年にシリアからドイツに逃れてきたパレスチナ難民の男性は、サミドゥンの活動で親パレスチナデモに参加していたため、難民ステータスを取り消すという通知を2023年7月、ドイツ政府から受け取ったという。また、タブロイド紙「ビルド」は、すでにドイツ国籍を取得していたパレスチナ系女性が「川から海へ」と書かれたイラストをSNS上でシェアしたことを糾弾し、彼女からドイツ国籍を剥奪せよと訴えた。
ハーベック副首相も11月2日、10分程度のビデオ演説を公開し、ドイツ国内のイスラム教徒に対し、ハマスや反ユダヤ主義から距離を置くよう求めた。
It’s almost four weeks since the horrific terrorist attack on #Israel. A lot has happened, the public debate has become heated and confused. Find thoughts from Vice-Chancellor Robert #Habeck in the video, putting the events in context. 📣With English, Hebrew and Arabic subtitles. pic.twitter.com/5jdXAZr7ey
— Bundesministerium für Wirtschaft und Klimaschutz (@BMWK) November 2, 2023
英語、アラビア語、ヘブライ語の字幕が付けられたこの映像は、イスラエルの安全がドイツの国家理性であることと、反ユダヤ主義の増加に断固として対応することが説明された。イスラエルの旗を燃やすことや、ハマスのテロを称賛することは違法で、有罪となれば、外国人は居住許可を取り消されるリスクがあり、難民申請者は国外追放される可能性があるとも訴えた。
さらに副首相は、イスラエルとハマス両方に問題があるという議論には問題があるとし、「イスラエルによるパレスチナの植民支配からの解放」という左派の言説も間違っていると非難している。この演説は、「バランスが取れている」として称賛するドイツ人が多かったようだ。しかし筆者は、親パレスチナ的な発言をドイツですることには大きなリスクがあると念押しされたように感じた。
実際、現在のドイツでは、ユダヤ人をターゲットにした迫害が急増しているという。ベルリンのユダヤ人コミュニティセンターに火炎瓶が投げ込まれたり、ユダヤ人の住む建物にダビデの星が落書きされたりする事件もあった。ユダヤ人に対する脅迫事件なども次々と報告されている。ハマスのイスラエル襲撃後、ドイツ国内の反ユダヤ主義的な事件は、2022年の同時期と比べて240%増加したと言われる。
最近、ドイツでは「輸入された反ユダヤ主義」という言葉がよく聞かれるようになった。2015〜16年に、主に中東から120万人以上の難民を受け入れたことで、ドイツではイスラム教徒の人口が急増した。イスラエル批判、つまり反ユダヤ思想は彼らが持ち込んだという主張だ。シュタインマイヤー大統領も11月8日、「ドイツにいるアラブ人パレスチナ系の人々は反ユダヤ主義から距離を置くべきだ」と発言した。反ユダヤ主義を起こすのはイスラム教徒だと決めつけているようだが、ドイツにはもともと反ユダヤ主義が存在しており、ガザの紛争が起きる前から反ユダヤ的な暴力は大幅に増えていた。その実行犯は極右の実行犯であることが多いことが警察では記録されている。事実、2019年にドイツ東部ハレ市のシナゴーグが攻撃され死傷者が出た事件を引き起こしたのは、極右思想に傾倒した白人至上主義者だった。
パレスチナ支援デモの参加者にはムスリムが多いが、白人至上主義者らによるより深刻な行動は今、それほど注目されていない。南部バイエルン州で連立政権入りしている右派ポピュリスト地域政党「自由な有権者」のフーベルト・アイヴァンガー党首は、「“無秩序な移民”によって反ユダヤ主義が増加した」と発言し、反移民を掲げて支持を伸ばした。実際は、彼自身が学生時代に反ユダヤ的な発言を続けていたことが明らかになっているが、自らの言動について何ら責任を取らされていない。
イスラム嫌悪の高まりと縮小する難民受け入れ
イスラム教徒をターゲットにした要人の発言や報道が続くと、国内でイスラム教徒への警戒心や反移民感情が高まる恐れもある。ドイツ統合・移住リサーチセンターが11月初めに発表した調査によると、ドイツにいる40%のムスリム男性が「警察や政府からの人種差別やレイシズムに直面している」と回答している。
最近では、難民や庇護申請者に対する暴力事件の急増も報告されている。「メディエンディンスト・インタグラション」によると、2022年は難民施設に対する暴力事件が120件、施設外の事件が1420件だったが、2023年は9月までにそれぞれ112件、1403件に上っている。
そんななか、オラフ・ショルツ首相は10月、難民の受け入れを制限することを発表した。最近、ヨーロッパには難民申請者が急増しており、受け入れる自治体の財政に負担がかかっている。そのため、国境コントロールの強化と、難民認定を取り下げられた人々の強制送還を進めるという。これでドイツの難民に対する寛大な政策は終わりを告げた。
この背景には、反移民を訴える極右政党、ドイツのための選択肢(AfD)の支持が高まっていることがある。今年行われたバイエルン州とヘッセン州の州議会選挙でも、AfDが議席を大幅に増やした。ドイツの公共放送ARDの委託で調査機関のドイチュラント・トレンドが10月に実施した世論調査によると、ドイツ人の44%が「政治家が優先すべきドイツの最も重要な政治問題は不法移民対策」だと考えていることが明らかになっている。
しかし、労働力が不足するドイツは、外国からの熟練労働者を求めている。これまでは、難民認定を受けられなかった人々は職業訓練を受けて専門知識を身に付け、労働者として貢献することを条件に滞在が許されることが多かった。今後、強制送還が始まると、労働者を増やす機会も減るだろう。
さらに、現在の反イスラム的な風潮の強まりを受け、アラブ系の専門職人材を中心にドイツを離れたがる人も出てきていると聞く。一外国人としてドイツに住む筆者にとっても、今後の政情に関して少しずつ懸念材料が増えつつある。
This is what this Palestinian refugee posted – and Germany’s best selling newspaper implies her citizenship should be taken away for it https://t.co/UspxUrSiL0 pic.twitter.com/OBH1YVJujF
— James Jackson (@derJamesJackson) November 14, 2023







