『月刊ドットワールドTV』#15 藤元明緒監督がベネチア国際映画祭で見た芸術の力
『LOST LAND/ロストランド』を通じてロヒンギャの人々の声を世界へ

  • 2025/11/9

 ドットワールドと「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロスメディア番組『月刊ドットワールドTV』が、15回目のライブ配信を行いました。今回は、ナビゲーターを務めるドットワールド編集長の玉懸光枝が、映画監督の藤元明緒さんを東京のスタジオに招き、8bitNewsの構二葵さんとともに伝えました。

審査員特別賞など三冠を達成

 15回目となる番組は、「藤元明緒監督がベネチア国際映画祭で感じた芸術の価値」と題し、11月6日の日本時間18時から8bitNews上で配信されました。

 日本に住むミャンマー人家族の物語を描いた『僕の帰る場所』や、ベトナム人技能実習生を題材にした『海辺の彼女たち』など、アジアを舞台に合作映画の制作を行う藤元明緒監督の最新作『LOST LAND/ロストランド』が、8月末から9月初旬にイタリアで開かれた第82回ベネチア国際映画祭でオリゾンティ・コンペティション部⾨の審査員特別賞に加え、独⽴賞である最優秀アジア映画賞特別表彰とビサート・ドーロ賞(⾦の鰻賞)最優秀監督賞も併せ三冠を達成したこの作品は、少数派イスラム教徒ロヒンギャの人々の証言を基に紡がれたもの。ミャンマーから逃れ、バングラデシュの難民キャンプで暮らしていた無国籍の幼い姉弟が、家族との再会を願っていくつもの国境を命懸けで越えていく旅路を描いています。

 予告編の映像に続いて登場した藤元監督は、まずこれまで制作した作品『僕の帰る場所』、『海辺の彼女たち』、そして『白骨街道』について振り返りました。

 初の長編映画『僕の帰る場所』(2017年/日本=ミャンマー)は、難民申請が通らない在日ミャンマー人家族の葛藤と決断を描き、東京国際映画祭の「アジアの未来」部門で2つの賞に輝き、デビューを飾った作品です(「世界が注目する在日ミャンマー人家族の決断と生き様」(2019/5/10付))。藤元監督は、「この映画のおかげで、ミャンマーをはじめ、海外の人々との接点が生まれ、移民や難民といったテーマに関心を持つようになった。人生観が大きく変わった作品」だと振り返りました。

 こうした背景から制作された長編二作目の『海辺の彼女たち』(2020/⽇本=ベトナム)は、ベトナム人技能実習生の女性が直面する現実を描いた作品で、「大島渚賞」や「新藤兼人賞」を受賞するなど、高く評価されました(「映画画『海辺の彼女たち』 技能実習生の今と未来」(2021/6/9付))。

 一方、『白骨街道 ACT1』はミャンマーのチン州を舞台にした作品で、第二次世界大戦中、最も無謀と言われるインパール作戦に従軍した日本兵の遺骨や遺品の収集作業を行うに住む少数民族ゾミの人々を描いたショートフィルムです。入念に脚本を練り、時間をかけてキャスティングしたうえ人物の心理を丁寧に描写した前の2作とは対照的に、フィールドワークに近い方法で急遽、制作されたといいます(「藤元明緒監督が『白骨街道 ACT1』で継承したい歴史とは」(2022/4/22付))。藤元監督は、「ACT3まで作ろうと思っていたが、その後、コロナ禍とクーデターで現地に入ることが難しくなった。いつかまた続きを撮りたい」と語りました。

映画祭という「対話の場」

 続く長編三作目の『LOST LAND/ロストランド』は、日本、フランス、マレーシア、ドイツの4カ国による共同制作で、ベネチア国際映画祭後、すでに10カ国で上映され、計5つの表彰を受けています。日本でも11月5日に閉幕した東京国際映画祭でプレミア上映され、来年4月には劇場公開が予定されているほか、フランスやチェコ、スイス、スロバキアなど海外での公開も続々と決まっており、高い注目と関心を集めています。

 藤元監督はまず東京国際映画祭でのジャパンプレミアについて、「二度の上映とも満席となり、反響があった」「ロヒンギャ語の映画はなかなか映画祭で上映されないため、初めてロヒンギャの人々の存在に触れたという方々にも多く来場いただいた」と話しました。

 続いて、玉懸が藤元監督の独占手記「82回ベネチア国際映画祭で感じた芸術の価値(2025/11/5付)」を紹介。ベネチア国際映画祭の印象を尋ねると、監督は、「ハリウッドスターがレッドカーペットを華やかに歩くイメージが強く、テレビの向こう側のキラキラした世界のように感じていたが、参加してみると、単なる映画の祭典ではなく、多角的な作品を上映し、監督や観客が政治・人権・歴史をめぐって率直に語り合う開かれた場だった」と、振り返りました。
 また、手記の中で紹介している2つの空席の写真について、監督は「当日、参加できなかった主演の姉弟のために用意してもらった」と明かし、「通常、映画のお披露目にはキャストが舞台挨拶することが多いが、二人は市民権もパスポートもないロヒンギャで、移動の自由がなく映画祭に参加できない。その現実の歯がゆさから、せめて主演が不在であることを訴えようと映画祭側に協力してもらった」と、複雑な心情を吐露しました。

くすぶっていた罪悪感 13年越しの構想を実現

 そんな藤元監督が最初にロヒンギャの人々と映画を撮りたいと考えたのは、1作目の『僕の帰る場所』を構想する前だったといいます。監督は「ミャンマーでロヒンギャという名前を出すことがどれだけタブー視されているかを知り、自分の仕事や人間関係に影響が及ぶことを懸念して当時は制作に踏み切れなかった」、「そのことへの罪悪感がくすぶり続けていた」と語りました。また、2017年のロヒンギャに対する無差別の武力弾圧や、2021年の軍事クーデターを受け、「映画監督としてキャリアを積み重ねてきた今こそ」との思いからロヒンギャの旅路を描く映画の撮影を決意したことや、キャスティングの際のエピソードなどを紹介しました。

 さらに、ロヒンギャ語の原題「ハラ・ワタン」(失われた故郷)について、「“ワタン”(故郷/土地)の中の“タン”には身体という意味がある」、「“ハラ・ワタン”という言葉には、“故郷を失うことは身体の一部を失うことに等しい”という彼らの思想や感情が込められている」と話しました。
 そのうえで、今後は映画祭の巡業や一般配給に加え、社会をより良くするためのアクションの一つとして、イギリスの専門会社と連携し、政策関係者やキーパーソンを招いた対話促進型の上映(インパクト・スクリーニング)も展開していくと語りました。

虚構を介して現実に踏み込む作品づくり

 番組の後半では、リアリティとフィクションの融合についても盛り上がりました。玉懸が『僕の帰る場所』で主演を務めた幼い兄弟や、『LOST LAND/ロストランド』の主演の姉弟の自然な演技をどのように引き出したのか尋ねると、藤元監督は「脚本はあるが、細かい指示や演技指導は一切せず、姉弟の自然な関係性を重視した」と話しました。また、一連の作品がドキュメンタリーのようだとしばしば評されることについて、「ロヒンギャも在日ミャンマー人も現実にいる人たちなので、架空の存在という印象を見る人に与えないよう、リアリティと演技の説得力にこだわった」と話しました。
 続いて、自身もドキュメンタリーを撮る構さんが、ロヒンギャや技能実習生を取り巻く課題を描くにあたり、ドキュメンタリーではなくフィクションの手法をとった理由を尋ねると、「第三者が何かを演じて伝える行為自体がそもそも好き」だとしたうえで、「当事者の安全・プライバシー配慮も鑑み、虚構を介して現実に踏み込む作品を目指している」と答えました。

 最後に藤元監督は、今後の創作について、文化庁の海外展開支援プログラム(第2期)に選出されたことを明かし、戦地に赴いた父の帰還を待ち続ける子どもを軸にした、タイとミャンマー国境に住むミャンマー人家族のホームドラマを企画していると話しました。また、日本で暮らす海外からの移民をテーマにした映画も同時に進めたいと意気込みました。

インドネシアやネパールの暴動と再建のきざしを伝える記事も紹介

 番組では、それ以外の新着記事も紹介しました。
 「社会を読み解く」からは、タイとミャンマー国境で避難民の子どもたちの教育に情熱を燃やすミャンマー人女性たちの姿に迫った北川成史さんの記事「ミャンマー避難民らに教育を」(2025/11/2付)や、現代アートの世界的な拠点として知られるベルリンで開かれた国際展覧会で展示されたミャンマー人のアート作品を紹介した駒林歩美さんの記事「第13回ベルリン・ビエンナーレで見た弾圧下の人々の力強さ」(2025/10/31付)、中国に詳しい福島香織さんが習近平政権の今を読み解いた「新疆ウイグル自治区設立70周年の違和感が示す習近平体制の揺らぎ」(2025/10/15付)を紹介しました。

 続いて、「報道を読む」からは、「「永遠の命」を欲する中ロと北朝鮮の指導者たち」(2025/11/4付)、「タイでまた首相が交代 7カ月の政権を待ち受ける「大仕事」」(2025/10/26付)、「「98年の悲劇を繰り返すな」 インドネシアで大規模な反政府デモ」(2025/10/21付)、「廃墟の中の「レジリエンス」 政変後のネパールに変化の兆し」(2025/10/19付)の記事を紹介しました。
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 ドットワールドは、これからも記事や写真、そして2024年9月に始まった8bitNewsとのクロスメディア番組「月刊ドットワールドTV」を通じて、現地の人々から見た世界の姿やさまざまな価値観、喜怒哀楽を伝え、違いを受容し合える平和で寛容な一つの世界を実現する一助となることを目指します。
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