新彊ウイグル自治区の開発を加速させる中国の真の狙いは
民族クレンジングが吹き荒れる地で進行する漢族化

  • 2024/4/4

 中国で、中央政府の管理監督を受ける中央企業に対して「新疆大開発」とも言うべき大規模な投資の指示が出されている。3月11日には北京で新疆産業支援就業工作会議が開催され、2024年から2026年の3年間に総額7000億元(約14兆7000億円)を新疆地域に集中投資することが呼びかけられた。これに先立って中国国務院は2023年10月、新彊を新たに自由貿易試験区に指定したうえで、投資の自由化・利便性向上の推進、貿易の利便性の水準向上、デジタル経済の推進、人民元決済の拡大、上海協力機構(SCO)や「中国・中央アジア5カ国」協力枠組みなどを通じた周辺国との協力強化など、8分野25項目にわたる措置を発表していた。これに続く今回の動きをどう見るべきか。

急激に増えた派出所(2019年5月、新彊ウイグル自治区のウルムチ市で筆者撮影)

総額7000億元の集中投資

 国務院の国有資産管理委員会党委員会書記兼主任を務める張玉卓氏によれば、2023年の中央企業による新疆への固定資産投資額は2700億元(約5兆6700億円)に上り、さらに1700億元(約3兆5700億円)に上る請負プロジェクトを契約しているという。さらに今回、2024年から3年にわたって133件の投資プロジェクトを新規に準備し、総額7000億元(約14兆7000億円)がこの地域に投じられることが発表された。公式には、将来にわたる新興産業を育む「揺籠(ゆりかご)」をつくることで、習近平国家主席が昨年から打ち出しているニュークォリティ生産力(新質生産力)を形成することが投資の目的だとされており、3.2万人もの新疆の人々に雇用の機会が創出されるという。2017年に河北省保定市近郊に設置された雄安新区開発への投資が、2023年時点で270プロジェクト、累計6000億元(約12兆6000億円)であることと比べても、新彊に対してはかなりの集中投資を行う計画だと言える。

旧市街の取り壊しが進む(2019年5月、新彊ウイグル自治区カシュガル市で筆者撮影)

 具体的な対象分野としては、インフラ建設、資源開発、農業現代化、観光産業などが挙げられている。特に最重要分野に指定されている基礎インフラ建設としては、鉄道や道路、空港、電力網などの建設プロジェクトがリストアップされており、実現すれば新彊の交通とエネルギー環境が大幅に改善することが期待されるという。新彊以外の地域ではインフラ事業の延期や削減指示が相次いでいるのとは対照的だ。なかでも重視されているのが電力インフラの建設で、大規模な太陽電池発電プラントや風力発電プラントの建設なども含まれている。また、新疆の国際観光ブランドを構築して海外からのインバウンド観光客を招致する計画もある。

 さらに、これまで新疆周辺で力を入れてきた資源開発も継続するとともに、農業の近代化を通じて農産品の質と量を向上し、新彊地域の農民の暮らしの改善に多大なインパクトをもたらす、としている。

国境地域を安定化して党中央の支配を強化

 こうした投資計画の狙いについては、さまざまな見方が出ている。肯定的な意見としては、中央企業が集中的に巨大投資を行うことで新疆の経済や社会の発展が推進され、中央アジアやヨーロッパに対する経済貿易の窓口になることへの期待だ。さらには、低所得世帯が多い新疆地域の生活が改善され、ウイグル族による抗議デモや爆発事件など、いわゆる「テロリズム」の背景の一つとされる貧困が改善されることで、地域の安定につながるという見方もある。

「悪の勢力を排除しよう」と呼びかけるメッセージ(2019年5月、新彊ウイグル自治区カシュガル市で筆者撮影)

 反面、この投資計画は事実上、成功しないのではないかとの悲観論もある。例えば、「実施の具体的なプロセスが示されていない」、「巨額投資プロジェクトの場合、クオリティと費用対効果を確保しなければ、官僚の功績に利用されるだけの空洞化した“メンツプロジェクト”に陥る」といった意見も出ている。実際、河北省保定市近郊に建設された前出の雄安新区も産業移転が予定通りに進んでおらず、立派な箱ものが建設されただけのメンツプロジェクトだという批判がある。

街中に掲げられた「民族の調和ある共存」のメッセージ(2019年5月、新彊ウイグル自治区カシュガル市で筆者撮影)

 また、「地元のウイグル人と、投資する側の共産党の間に信頼関係がないため、コミュニケーションの問題が障害になるだろう」との指摘もある。新疆は、ウイグル人に対する強制収容や労働搾取などが深刻な人権侵害だとして、国際社会から強く批判されている地域である。中共政権は以前よりウイグル独立派をテロリストとして取り締まってきたが、習近平政権になってからは、一般のウイグル人や子どもたちもターゲットとされ、これまで共産党に比較的協力的だった知識人やエリート、資本家らまで弾圧し、AIを利用した徹底監視と洗脳教育で人々を支配している。その手法は、「ウイグル・ジェノサイド」「民族クレンジング」と非難されるほど苛烈なものだ。

 そのため、今回の新疆に対する投資計画についても、真の目的はもっと政治的なところにあるのではないか、という見方もある。つまり、新疆という、中国にとって重要な国境地域の安定を確実なものにするために、完全な漢族化と中国化を進め、党中央の支配を強固なものにすることを狙っているのではないかというのだ。

観光地化されたウイグル人の暮らし(2019年5月、新彊ウイグル自治区カシュガル市で筆者撮影)

 この推測の根拠は、3年間で7000億元(約14兆7000億円)という大規模な投資の割に、現地雇用の創出数が3.2万人と、規模が比較的少ないためだ。プロジェクトに携わる労働者たちは新疆の域外から派遣され、結果的に新疆地域に住むウイグル人の割合を引き下げるとともに、現地ウイグル女性との婚姻を奨励して血統を薄めることで、ウイグルの伝統的な生活様式や価値観、風習を漢族化しようとしているのではないか、というわけだ。

「一帯一路」の立て直しと現代版「三線建設」

 さらに、習近平国家主席が鳴り物入りで打ち出したにも関わらず、いまや挫折の危機に直面している国家戦略「一帯一路」構想の立て直しが真の狙いなのではないか、との見方もある。一帯一路の起点は新彊であり、この構想を実現するためにこの地域へのコントロールを強めることが必要だったが、一帯一路はその後、プロジェクトの規模を一気に拡大し、沿線の国々の債務問題を引き起こした。中国は債務を返済できない国々に対して港湾など交通インフラの使用権差し押さえに踏み切ったため、一帯一路は国際社会から「債務の罠」「中国式植民地政策」と非難を受けることになった。

新彊自治区最大のモスクであるエティガール寺院は、まるで遊園地のように世俗化されていた(2019年5月、新彊ウイグル自治区カシュガル市で筆者撮影)

 他方、中国側の資金が不足してとん挫するプロジェクトも続出している。一帯一路構想の遂行状況を調査したオーストラリアのシンクタンク、ローウィ国際政策研究所によれば、中国が東南アジア諸国に約束した事業のうち、2023年時点で3分の2にあたる547億米ドル(約8兆2974億円)相当が履行されていないという。

 こうした背景から、習近平国家主席は一帯一路構想について、規模の縮小や内容の見直しを進めている。そのような状況下で中央企業に対して新疆投資大号令が出されたとすれば、一帯一路と新疆大投資計画をリンクさせようとの狙いも当然、あり得るだろう。

脱貧困政策を謳う看板と毛沢東像(2019年5月、新彊ウイグル自治区カシュガル市で筆者撮影)

 ここで、国有資産管理委員会が新疆大投資計画の目的として公式に掲げる「戦略的新興産業の揺籃をつくり、習近平国家主席が2023年に打ち出したニュークォリティ生産力(新質生産力)を形成すること」に注目する向きもある。評論家で人気ユーチューバでもあるカナダ在住の華人、文昭氏は、毛沢東・党主席が1960年代に旧ソ連との全面核戦争を想定し、戦争リスクが最も高い沿海部(一線地域)の軍需工場や技術者を、貴州や雲南などリスクが低い内陸(三線地域)に集めようとした号令「三線建設」に言及し、「今回の中央企業による新疆への集中投資は、現代版の三線建設だ」というユニークな意見をYouTube上で披露していた。
 習近平は2023年、新たな経済政策としてこの「ニュークォリティ生産力」というスローガンを打ち出した後、2024年3月には全国人民代表大会の一貫として開かれた解放軍・武装警察代表による分科会の席上、ニュークォリティ生産力とニュークォリティ戦闘力をリンクさせることで海上戦闘力を包括的に高めよと訴えた。「ニュークォリティ生産力」が軍需産業、特に、AI兵器製造に欠かせない先端半導体産業などを想定していると見られているのは、そのためだ。習近平も世界大戦を意識し、こうしたハイテク産業や軍需産業など国防に重要な産業を新彊のような内陸地域に集中させようとしているのではないか、というわけだ。

ホテルのエントランスでもX線によるセキュリティチェックが行われていた(2019年5月、新疆ウイグル自治区カシュガル市で筆者撮影)

 もっとも、毛沢東の三線建設は結果的に挫折した。交通インフラが未発達で消費市場がない内陸部に工場を移転させても機能しなかったためだ。だが新疆ならば、「一帯一路」によって、中央アジアや東欧の新興国の巨大市場へとつながる運輸インフラが建設されている。さらに新疆は、石油や天然ガス、レアアースなどの資源を豊富に擁しているうえ、土地面積も広大で、産業に必要なエネルギーを供給するために太陽光や風力、火力などの発電プラントを増設することも問題ないことを考えると、戦争に備え基幹産業を誘致する候補地としては悪くない。実際、中東地域の不安定化を受け、イエメンのフーシ派が紅海を航行する船舶に対して攻撃を繰り返し、アジアとヨーロッパ間の海運がマヒした際は、新疆経由でヨーロッパまでつながる中欧直通列車の存在感が高まった。

否定できない工業植民モデル復活の可能性

 前出の文昭氏は、もう一つ面白い見方を挙げる。習近平が旧ソ連式の工業植民モデルの復活を考えているかもしれないというのだ。毛沢東時代の中国は、国有工場を建てると、労働者(ワーカー)を集め、宿舎から学校、幼稚園、病院、火葬場まで、ワーカーのためにすべての国有施設を建設・運営し、工場自体が一つの街を形成していた。市場経済化に伴いこうした工業植民モデルは消滅したが、昨今の習近平の政策は計画経済方向へと逆走する路線をとっているかのようだ。実際、各地方政府には、コミュニティが運営する安価な国営食堂(人民食堂モデル)の復活や、保障性住宅(住宅分配)などの政策が指示されている。

靴と洋服を扱う商店の入口にもX線によるセキュリティチェックが設置されていた(2019年5月、新彊ウイグル自治区カシュガル市で筆者撮影)

 新疆地域では、「テロ対策」を建前にした徹底的なハイテク監視網がすでに構築されており、人民をコントロールして洗脳するシステムができ上がっているため、もし社会主義的な工業植民モデルのテストケースをつくろうと思えば、比較的容易につくれるだろう。しかも、漢族の若者を大量に移住させることで漢族化をさらに進め、この地域のウイグル文化を薄めることもできよう。

新疆の特産品や、ウイグル系の食品などを扱うスーパーマーケット、伊合拉斯(IHLAS Super Market)の入り口でもセキュリティチェックが行われていた(2019年5月、新彊ウイグル自治区カシュガル市で筆者撮影)

 もちろん、いずれの考えも想像の域を出ていない。だが、新疆ウイグル自治区では中国で最も厳しい人権弾圧である民族クレンジングが現在進行形で行われている以上、この地域への巨額投資が、単に地域経済の新興や発展だけを目的として行われるわけではないと感じるのは、これまでこの辺りを取材してきた人間の直観である。

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