インド探査機が月面に着陸 南アジア諸国の反応は
世界初「月の南極」への到達 宇宙開発は新時代へ

  • 2023/9/29

 インド宇宙研究機関(ISRO)は8月23日、インドの無人月面探査機「チャンドラヤーン3号」が月への着陸に成功したと発表した。月面への無人探査機の着陸が成功したのは、アメリカ、旧ソ連、中国に続く4カ国目。月の南極付近への着陸は、世界初の快挙だ。

 インドは4年前にも探査機「チャンドラヤーン2号」を打ち上げたが、月面着陸には失敗していた。今回の「3号」は、水が氷の状態で存在する可能性がある月の南極付近への着陸を目指して打ち上げられた。同じ南極付近への着陸は、8月21日にロシアの無人探査機が失敗していただけに、「3号」の着陸成功は、インドのみならず世界中で祝福をもって受け止められた。また、この月面着陸は、人口で世界一となり、経済的にも成長が著しく存在感を増すインドを象徴する出来事となった。

インド南部シュリーハリコータにあるインド宇宙研究機関(ISRO)のロケット発射場から打ち上げられるチャンドラヤーン3号(2023年7月14日撮影©️ Indian Space Research Organisation /Wikimedia Commons)

月面が不動産に?勢いづく宇宙開発

 インドの英字メディア、タイムズオブインディアは、8月26日付の紙面に「月面技術競争に勝ち、地球上の勝者に」と題した社説を掲載した。

 社説は、「チャンドラヤーン3号」の着陸を解説した4つのポッドキャストに着目し、そこで語られたエピソードをとりあげた。例えば、今後インドの宇宙開発には、より民間セクターが関わる必要があるということ。また、宇宙開発計画に対する公的支援の見直しが必要であり、「ISROは納税者や未来の科学者となり得る学生たちと対話する努力」をせねばならないこと。そして、米国を例に挙げ、政権が商業的な宇宙開発を支援し続けることで、独自のイノベーションが生まれる環境が作られること。さらに、ロケット開発には2000人以上の科学者やエンジニアやサポートスタッフが関わっていることなどを紹介した。

 月面着陸成功に沸くインドでは、着陸の日だけでなく、連日のように宇宙開発に関するさまざまな話題が語られているという。社説によれば、話題は「月面の不動産の占有権」にも及んだという。「中国が月を南シナ海のように扱おうとするのではないか、という懸念を論じたポッドキャストもある。こうした懸念を背景に、各国は月の主要な場所に一番乗りで到達したいと考えている。将来は間違いなく、国や企業が月の不動産の占有権をめぐって争うことになるだろう」

アフリカから飛び出した人類、次は宇宙へ

 インドの成功を南アジアの他の国々はどう見ているのだろう。スリランカの英字紙デイリーニューズは8月25日付の社説でこの話題をとりあげた。

 「チャンドラヤーン3号の成功によって、インドの存在感は米国やロシアをしのぐものになったと言える。ロシアは数日前に月面着陸に失敗しており、日本も民間企業が月に探査機を送ったが、やはり失敗に終わった。かつて大国の独壇場だった宇宙は、開放されつつある」

 社説は、インドのモディ首相が語った「宇宙は全人類のものである」という言葉に同意し、「宇宙開発は、一国で取り組むには大きすぎる。我々が進むべき道は、宇宙機関同士の協力だ」と述べた。また、インドの科学者チームの中に55人の女性がいたことにも触れ、「管制室に女性の姿がほとんど見られなかったアポロ11号の時代とは大違いだ。これは他のすべての国にとって教訓となる」とした。

 さらに社説は、宇宙開発の価値について、「地球に問題が山積している今日、宇宙探査の価値を疑問視する人もいる。しかし、他の世界について学べば学ぶほど、自分たちの世界についても知ることができるのだ」と、評価する。さらに、「人類は本来、探検するようにできている。もし、初期の人類が未知を求めて飛び出さなかったら、私たちはいまだにアフリカに閉じこもっていたに違いない」と、ユーモアを交えて語った。

 その一方で、「地球の資源をこのまま酷使し続ければ、今後500年以内に人類は地球で生きられなくなるだろう。だが、他の世界を研究することで、おそらく次の手を考えることが可能になる」という社説の言葉には、宇宙開発に向き合う人類の追い詰められた状況も透けて見える。

ライバル国パキスタンは地上で足踏み

 インドと対立する隣国パキスタンの英字紙ドーンも、8月25日付の社説で「インドの成功から学ぶことがある」との見方を示した。

 社説は、「比較することは実に忌まわしいが、パキスタンがインドの宇宙開発から学ぶべきことはたくさんあるかもしれない」と、切り出す。そして、パキスタンの宇宙開発がいまだに「地上にとどまっている」理由の一つとして、宇宙機関が長年、専門家ではなく退役軍人によって指揮されてきたことを挙げた。また、国内の教育制度や機会が不足しているために優秀な若者が海外のより恵まれた環境に行ってしまい、頭脳流出が起きていると指摘した。宇宙開発の重要性を認識しながらも、足踏み状態にあることのジレンマを伺い知ることができる。

 今回、インドが月面着陸を成功させたことは、存在感を拡大しているインドを象徴する出来事ではあるものの、宇宙開発は一朝一夕で成果が出るものではないだろう。しかし、スリランカ紙が指摘するように、宇宙開発は、気候変動で病む地球の住民にとっては単なる夢ではなく、実現しなくてはならない事業になっているのだ。

 

(原文)

インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/win-lunar-tech-race-be-winners-on-earth-four-podcasts-about-rocketry/

スリランカ:

https://www.dailynews.lk/2023/08/25/editorial/92293/over-the-moon/

パキスタン:

https://www.dawn.com/news/1772102/indias-space-quest

 

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