待ったなしの温暖化対策 COP28を前に各国の動向は
政治対立を超えて脱炭素化の実現へ

  • 2023/9/2

 世界中で猛暑に悲鳴が上がっている。気候変動による気温上昇が語られるのは毎年のことだが、今年は特に気温が高い。温暖化の危機感に拍車がかかる中、11月から12月にかけてアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで国連気候変動枠組条約 第28回締約国会議(COP28)が開催されることとなり、各国の動向が注目されている。

猛暑による山火事の影響も深刻だ (c) Matt Palmer / Unsplash

致死的な猛暑、残された希望は科学技術の進歩

 インドの英字紙タイムズオブインディアは、7月22日付の社説で「人類は熱波の大災害を生き延びることができるか?地球温暖化の抑制は不可能ではない」と題し、この問題をとりあげた。

 「ロンドンで40度、米国ブリティッシュコロンビア州で47度、フェニックスで50度。これは、高齢者、貧困層、医療弱者といった弱い立場にある人々を淘汰する現象だ」と、社説は書き出す。そして、科学誌ランセットを引用し、2019年には489万人が、猛暑が直接の原因となって死亡したと記す。さらに、「現在、3000万人が酷暑のなかで生活しているが、2080年にはその数が20億人に達することが予想されている」という。

 猛暑によって悪影響を被るのは人間だけではない。社説は、「暑さによって食料生産性が低下する」と指摘する。「気温が1度上がるごとに、トウモロコシは7%、小麦は6%、コメは3%、それぞれ生産量が減少する。人間と同様に、植物も暑すぎると汗をかき、水分を失う。また、熱にさらされると病気や菌類に侵されやすくなる」。

 しかし、「それでも希望はある」と、社説は主張する。「異常気象をめぐる科学技術が以前に増して洗練されている」というのが、その理由だ。世界の脱炭素化は10年前の予想をはるかに上回るスピードで進んでいるし、クリーンエネルギーは、多くの地域で化石燃料よりも安価になっている、という。

 ただ、地球が人類の研究と努力を上回るスピードで熱くなれば、話は変わってくる。「極度の暑さは、人類を滅亡させる。私たちはこの事実をしっかり認識し、自らを焼き殺さないように行動しなければならない」

いがみ合う米中、気候変動を前に協力関係構築へ

 まさに待ったなしの状況である温暖化対策。そのカギは、超大国のリーダーシップにある。シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、米中両国の気候変動担当者が7月に会談したことを高く評価した。

 米国のケリー大統領特使(気候変動問題担当)は7月19日、訪問中の中国で、気候変動問題担当特使である解振華氏と会談した。ドバイで開催されるCOP28を前に、気候変動分野において、米中の協力関係を構築する狙いとみられる。

 社説は、「ケリー氏の中国訪問は、気候危機に取り組む世界に希望を与えるものだった。世界の二大経済大国が深刻な対立関係にあるにも関わらず、人類最大の脅威に共に対処しようとすることを示した」と評価した。

 また社説は、COP28において、中国と米国のリーダーシップは不可欠だ、としている。グリーンエネルギー投資を拡大するための国際的な合意、化石燃料の段階的な廃止にむけたスケジュール策定など、未解決の課題は多い。

 社説は、「中国は、明らかに米国との良好な関係を重視している」と見ている。そして、ここ数週間で米中両国が猛暑や洪水に襲われたことを指摘し、「両国は他の問題では深い意見の相違があるが、気候変動は彼らにとって共通の脅威だ」として、米中が手を携えてこの問題に取り組む重要性を強調した。

                       *

 国際情勢は楽観視できるものではないが、シンガポール紙が指摘するように、米中両国には地球温暖化に対する共通の危機感がある。国際社会が足並みをそろえて立ち向かえば、インド紙の主張のように、地球の温暖化を遅らせることは可能なのだ。

 

(原文)

インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/can-humans-survive-the-heat-catastrophe-limiting-global-warming-is-tough-but-not-impossible/

 

シンガポール:

https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/us-china-climate-talks-timely-vital

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