インドに絵本を売り込んだ二人の男
カウンターパートとの奮闘「500 日」
- 2019/9/12
デスクに山積みされた書類
今回、翻訳出版のライセンス先として最も有力だと思われたのが、NBTだった。1957年に設立されたNBTは、インド政府系の独立機関で、国内最大の出版社である。
NBTのチャウドリー編集長とは、知人の作家ヴァーシャ・ダース氏の紹介で会った。編集長と面会したのは、2016年8月。絵本の内容を説明すると、「作品のコンセプトが非常に興味深い」と二つ返事で出版を承諾し、担当編集者としてヴィクラム氏を紹介された。彼を通して契約を進めることになったが、一向に始まらない。ダース氏に相談すると、「いくら編集長が了解しても、その上の会長がNOと言えば却下されることもある」という。そこで会長との面会をオファーしたが、「多忙」を理由に断られ、なかなか実現しない。埒が明かないので、NBTのシャルマ会長と親しい人物に面会を仲介してもらうことになった。
なんとか2016年11月に面会すると、会長は「素晴らしい絵本なので、ぜひうちで出版したい」と言ってくれ、その場で出版が決定した。同席したパンダ氏とほっと胸をなでおろし、その日は二人で祝杯を挙げた。これでやっと契約交渉が始まると安堵した。
しかし、遅々として進まない。その理由は、ヴィクラム氏のデスクにうず高く積まれたファイルが物語っていた。「政府系」であるため、出版社といえども、インドのお役所と同様、承認や決裁に膨大な時間がかかっていたのだ。
そんななか、2017年1月、NBT関係者が一堂に集う絶好の機会を得た。タイミングを逃さずデリーに出張し、打ち合わせを行って契約条件を固めることができた。
しかし、さらなる試練が待ち受けていた。契約書問題だ。NBTの契約書は17条項、A4で6枚程度なのに対し、日本側の契約書の雛型は33条項、A4で14枚あり、こと細かに契約内容が記されていた。二つの契約書のギャップを埋めるのに10カ月を要した。インドでの出版契約は社内でも前例がなく、知り合いのインド人弁護士にも相談しながら内容を精査し、日印双方で何十回もやりとりした。