人口減による経済失速で試練に直面する中国
「前例のない転換」に注がれるまなざしと教訓

  • 2023/2/13

 中国の国家統計局は2023年1月17日、2022年末時点の中国の人口を発表した。その数は14億1175万人で、前年比で85万人減少した。中国の人口が減少するのは1961年以来、61年ぶりだという。一方、インドの国勢調査などによると、インドの人口は2022年末時点で14億1700万人。国連の予測よりも早く、2022年末にはインドが中国を抜いて、世界一人口の多い国になった模様だ。

中国の人口は61年ぶりに減少に転じた (c) Unsplash/ Javier Quiroga

インドは少子高齢化の回避と労働者の増加を訴え

 インドの英字メディア、タイムズオブインディアは、2023年1月19日付の社説で「赤ちゃんと仕事:中国の人口減少からインドが学ぶべきこと ― 労働人口をもっと就労させよう」と題した記事を掲載した。

 社説は中国の人口が61年ぶりに減少したことについて、「61年前の人口減少は、飢餓によるものだった。しかし今回は、厳しく近視眼的な人口政策と、農村社会から工業社会への人口転換が原因だ」と、国家政策に原因があると分析した。そして、いったん人口減少が始まると、「スカンジナビア諸国やシンガポールでもそうだったように、どのような経済的インセンティブもそれを逆行させることはできない」と指摘した。
 社説は、2023年にインドが世界で最も人口の多い国になる、という国連の予測を引用し、「この前例のない人口転換から正しい教訓を得よう」と、呼びかける。
 「世界の人口は、現在の80億人から、2050年には97億人になると予測されている。問題は、国が経済的に豊かになる前に少子高齢化に陥ることをいかにして避けるか、ということだ」
 さらに社説は、中国がすでにこの課題に直面している、と指摘し、「中国の一人当たりの収入が、米国のそれを超えることはないだろう」として、中国の人口構造に大きな課題があることを示唆する。つまり、いくら人口が増えても、働き手が増えなければ、国の経済力は向上せず、人々の暮らしは豊かにならない。さらに少子高齢化が進んで働き手の割合が減れば、経済力の伸びは鈍っていく。
こうした中国の経験から、人口の中でも経済活動の担い手となる「生産年齢人口」に注目をする必要がある、と社説は主張し、次のように指摘する。
 「世界銀行のデータによると、インドの生産年齢人口は全体の68%で、世界平均の65%を上回る。14歳以下の年少人口も26%で、世界平均よりも高い。しかし問題は、生産年齢人口の46%しか働いていないということだ」
 社説によれば、インドネシアでは生産年齢人口のうち68%が、ベトナムでは74%が働いているという。
 「インド政府はこの問題を深刻に受け止めなくてはならない。インドの未来は、このトレンドを反転できるかどうかにかかっている」

若者の失業や社会不安で揺らぐ足元を指摘するシンガポール

 一方、人口が減少トレンドに入った中国は、人口問題以外にも、さまざまな岐路に立たされている。シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは2023年1月24日付で、「さまざまな面でリセットする中国」という社説を掲載した。
社説は、1月20日、中国の劉鶴(りゅうかく)副首相が、スイスのダボスで開かれた「世界経済フォーラム」の年次総会、いわゆる「ダボス会議」で講演し、「中国が計画経済に戻ることはあり得ない」と宣言したことを評価した。「劉副首相は、計画経済とはほど遠い立場にある西側の資本主義社会に対し、中国が世界に門戸を開き続けるという決意を、信念として示した」と述べ、これが単なる急場しのぎの発言ではないことを強調。アリババなど中国の大企業はこの発言にほっとしたことだろう、と付け加えた。
 また、この講演と同じぐらい重要だったのは、劉副首相が1月18日、米国のイエレン財務長官と3時間に及ぶ会談を行ったことだ、と社説は指摘し、「イエレン財務長官が今後、北京を訪問することになったところを見ると、会談は建設的なものだったのだろう」と評価した。
 中国の、国際社会への歩み寄りともみえるこうした行動は、中国が直面している様々な国内課題ゆえのものだろう、と社説は指摘する。中国の若者の失業率は警戒レベルに達し、「ゼロコロナ政策」は経済に打撃を与えただけでなく社会不安まで引き起こした。さらに不動産価格の急騰が経済成長の失速をもたらすなど、中国経済の足元を揺るがすさまざまな事態が起きているのだ。
 社説は中国が「必要とされる場所で柔軟な考え方を示したことは評価に値する」とした上で、さらに一歩踏み込み、こうした中国の姿勢が、「外交にも及ぶことを国際社会は期待している」との考え方を示した。さらに、同じアジアの超大国であるインドや、再軍備への道を進んでいるように見える日本などとは特に、冷え込んだ関係を回復することが期待される、と述べた。

(原文)
インド: https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/babies-jobs-lesson-for-india-from-chinas-population-decline-is-to-get-many-more-of-its-working-age-groups-into-work/

シンガポール: https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/china-resets-on-multiple-fronts

 

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