「巨人の星」を現地化するために
カレーの国で「ちゃぶ台返し」

  • 2019/7/10

インドでブレイクする秘訣とは?

 1年半に及ぶ日印の共同制作の現場には、思いも寄らぬ、数多くの難題が待ち受けていた。それらに直面するたび、両国の合同チームは一つ一つ乗り越え、最終的に26話のアニメを制作することができた

 全インドで800以上あるテレビ局のなかでもベスト5に入る人気のドラマチャンネルで2012年から翌13年にかけて放映されたこのシリーズは、予想以上に高い視聴率を稼ぎ、インドの子どもたちをテレビの前に釘付けにした。さらに、その後、日本にも逆輸入されて日本語の字幕付きでネット配信されたことから、クールジャパンの代名詞として数多くのメディアに取り上げられ、日本の中学校や高校の教科書でも紹介されることになる。

インド最大のアニメスタジオ。DQ社のスタッフは約3000人。ディズニーなど欧米の大手アニメ制作会社者から仕事を受注している

 ところが、数々の苦難を乗り越えたにもかかわらず、インド版「飛雄馬」は、残念ながら現地で日本ほどの人気を集めることができなかった。

 その理由について、インド文化に詳しい研究者の一人はこう指摘する。

 「<ナヴァ・ラサ>(9つの感情)が作品の中に十分に表現されていなかったからかもしれません」

 同氏によると、通常、インドの舞踏や映画などには、①恋、②笑い、③悲哀、④憤怒、⑤勇敢、⑥恐怖、⑦嫌悪、⑧驚異、⑨平静、の9つの感情表現が盛り込まれており、その「ナヴァ・ラサ」こそが、インドの大衆を魅了する秘訣なのだという。

 その指摘をふまえて、今、この日印合作アニメを振り返ってみると、②のユーモアの要素が不足していたように思う。もともと原作に出てくることが少ない感情であるからだ。

 

思いこんだら 試練の道を

行くが男の ど根性

 

 これは、「巨人の星」のテーマソングでお馴染みのフレーズである。しかし、日本とは比較にならないほど貧富の格差が激しいインド社会で、日々、厳しい現実を目の当たりにしている現地の子どもたちは、笑いの要素が少ない「ど根性」の物語にいささか物足りなさを感じたのかもしれない。

 飛雄馬が「インドの星」を目指すためには、今後、さらなるローカライズが必要になるだろう。

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