ミャンマー北部で展開された「1027オペレーション」の裏側を読む
中国がミャンマー内戦を仲介する背後に透けて見える狙いとは

  • 2023/12/13

 突然、電話がかかってきたかと思えば、中国語で「こちらは中国大使館です。あなたの口座が違法資金洗浄に関わっているので凍結することになりました。…身に覚えのない場合は、番号1をプッシュしてください…」などという音声が流れる。黙って聞いていると、音声は二、三度繰り返された後で切れた。番号を押してみたい誘惑にかられるが、詐欺だと分かっているので無視する。こういう中国版電信詐欺は、日本人の私にも時折かかってくる。こうした電話でつながるオペレーターは、だいたいミャンマーやカンボジアあたりを拠点にしている中国人詐欺集団らしい。
 このほど、こうした詐欺集団が割拠するミャンマー北部の華人系民族(コーカン人)が支配するコーカン自治区で、中国と反ミャンマー軍事政権武装集団が手を組んで、大規模な電信詐欺拠点一掃作戦が展開された。詐欺集団はミャンマー軍事政権の庇護下で犯罪を行っているため、中国側は反軍事政権の武装集団と連携してオペレーションを行ったという。これを「1027オペレーション」(10月27日から始まったという意)という。すでに3万1000人以上の容疑者が中国に移送されたというが、これに続き中国解放軍南部戦区はミャンマー国境で11月25日から軍事演習を行っている。さらに、11月27日には中国海軍がミャンマー・ヤンゴンのティラワ港に親善訪問の名目で入港した。建前は不安定化するミャンマー情勢に備えた国境防衛強化のためだとされていたが、実質的にはミャンマー軍事政権に対する圧力だと受け止めていいだろう。これを受けてミャンマー軍事政権は12月11日、中国の仲介で反ミャンマー軍事政権武装集団組織、三兄弟同盟の代表者と会談したことを発表した。これは本当にミャンマー和平につながる動きだと言えるのだろうか。

コカン地方の軍事基地に集まるミャンマー国家民主同盟軍(MNDAA)の反乱軍兵士たち(2015年3月11日撮影)(c) ロイター/アフロ

コーカン自治区の詐欺産業

 中国公安部側の発表によれば、雲南省徳宏タイ族チンポー族自治州公安当局は11月18日、ミャンマー北部の司法当局と連携して571人もの電信詐欺犯罪容疑者の身柄を中国公安機関に移送したという。ミャンマー北部の司法当局がこれまでに中国側に移送した電信詐欺容疑者は、資金源の組織首領や幹部63人を含めると3万1000人を超え、1531人が逃亡者として行方を追われている。 この電信詐欺組織の首領は、明学昌という。彼と、息子でミャンマー国籍の明国平、そのファミリーで中国籍(雲南省臨滄生まれ)の明菊蘭と明珍珍の4人が、賞金首として中国政府により指名手配されていたが、ミャンマー軍事政権当局がこの4人を逮捕。その際、明学昌は拳銃で自殺したため、遺体も含めて中国側に引き渡された。

ミャンマーのカヤー州ロイコー郊外のアヘン畑で赤ん坊を抱いて働く女性(2016年11月30日撮影)(c) ロイター/アフロ

 ミャンマー北部で一体、何が起きたのだろうか。そして、ミャンマー軍事政権とコーカン自治区の電信詐欺組織はそもそもどういう関係にあるのか。簡単に説明しよう。

 ミャンマー北部に位置し、雲南省と国境を接しているシャン州北部のコーカン自治区は、かなり特殊な場所だ。ここはコーカン族を名乗る漢民族が集まって居住し始め、現在は憲法によって政府から自治権を得ている。もともとは明朝末期に迫害されて雲南省まで逃げてきた中国人の末裔で、比較的最近、中国からこの地域に移住した中国人も「コーカン族」を自称している。

 コーカン自治区には、もともとMNDAA(全国ミャンマー民主同盟軍)という独自の軍があった。これは、瓦解したビルマ共産党から分離独立する形で1989年に「勇敢王」とあだ名された彭家声将軍により設立された武装集団である。ミャンマー中央政府が1989年にコーカン地域の自治権および優先的開発を提示すると、MNDAAはミャンマー中央政府に帰順し、彭家声は特別区主席に就任した。山間にあるこの地域は貧しく、ケシ栽培によるアヘン製造を主な産業としていたが、ミャンマーで2003年までにケシ栽培が全面的に禁止されると餓死者が出るほどの貧困のどん底に陥った。

誘拐されて強制的に詐欺に加担

 そうした中、2009年にいわゆる「88事件」がおきる。コーカンの麻薬製造拠点(武器修理拠点)を摘発しようとしたミャンマー当局とMNDAAが戦闘になり、これに乗じてMNDAAの白所成・第一副主席がミャンマー政府側と組み、彭家声将軍から実権を奪った事件だ。白所成はMNDAA内の親ミャンマー派を再編する形でミャンマー国境防衛隊を作り、ミャンマー軍の傘下に入った。彭家声率いるMNDAA反ミャンマー派はワ州連合軍支配地域のワ州政府特別行政区にいったん逃げ込み、今も反政府武装集団としてゲリラ戦を展開している。

ミャンマーのシャン州コーカン地区の風景 (c) Phyo WP / wikimedia commons

 その後、白所成はミャンマー議会民族院議員を経て、コーカン自治区主席となった。コーカンで勢力を拡大した白所成ファミリーは、カジノやホテル、不動産などで着々と富を築いた。一方、コーカンでは白ファミリーに対抗し、カジノ運営などを通じて台頭したファミリーも複数ある。亨利集団の創始者である魏仁超が率いる魏ファミリーをはじめ、カジノや不動産の運営でコーカン一の金持ちになった福利来集団の創業者、劉阿宝が率いる劉ファミリー、そして今回、懸賞金首となりミャンマー当局に逮捕された際に自殺したと言われている明学昌が率いる明ファミリーだ。
 彼らは、オンラインカジノから派生した技術や経験を背景に、電信詐欺などで巨額の富を得た。被害者となったのは、多くが中国国内の中国人だ。また、電信詐欺に加担したエンジニアも、高額報酬の宣伝につられて中国から国境を越えてやって来た中国人だった。中には単にホテルやカジノの従業員の募集だと思って来た人もいたようだが、現地に着いた途端、身分証明書を取り上げられ、民兵の監視のもとで強制的に詐欺に加担させられる人も多かった。今回、電信詐欺容疑者としてミャンマー当局に逮捕された中国人3万1000人は、多くが詐欺犯罪の協力者であると同時に、越境誘拐、拉致監禁、そして傷害事件の被害者でもあるのだ。
 こうしてミャンマーに誘拐されてきた中国人たちの中には、詐欺のノルマがこなせず、拷問を受けて死亡したり、移植用に臓器を抜かれたり、奴隷として第三国に売られたりすることもあった。ちなみに、明ファミリー、白ファミリー、劉ファミリー、そして魏ファミリーは、いずれも「自分たちは電信詐欺に加担していない」「電信詐欺をもっと取り締まってほしい」という立場を表明している。しかし、彼らがコーカンにおける詐欺産業の黒幕であることは公然の秘密であり、ここまで詐欺が産業化を遂げたのは、彼らがミャンマー国軍の庇護をうけていたためだと言われていた。

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