情報がなくなる恐怖【ミャンマー・クーデタールポ 5】
ネット切断でラジオがバカ売れ

  • 2021/5/31

【編集部注:】

この記事は4月に掲載予定でしたが、掲載直前に筆者の北角裕樹さんがミャンマー国軍に拘束されたため、北角さんの身の安全を考慮し掲載を見合わせていました。5月13日に北角さんが釈放され、翌14日に帰国したことを受け、「現地の様子を伝え続けたい」という北角さんの意向を踏まえ、当時のルポ記事を掲載します。

~~~ 以下、記事 ~~~

店頭に積まれるアナログ式ラジオ
 ヤンゴン・ダウンタウンの電器店の店先に積まれていたのは、めったに見かけなくなったラジオだった。アナログ式にダイヤルで周波数を合わせる旧式のもの。古い在庫を引っ張り出してきたのだろう、パッケージもどこか色あせている。ほんの10分ほどの間にも次々と客が訪れラジオを買い求めていた。店員は「みんなスマホを使っていたからラジオを持っている人はほとんどいないんだよね」と説明する。ボイス・オブ・アメリカ(VOA)や、英BBCのビルマ語放送を聞くのだという。

ラジオが並ぶヤンゴン・ダウンタウンの電器店(筆者撮影)

 急にラジオが必要になったのは、データ通信回線の切断が原因だ。携帯電話のデータ通信も3月半ばに停止され、多くのミャンマー市民によってインターネットが使えなくなっているのだ。国営テレビは、都合のよいようにニュースを捏造すると思われているので、それ以外の信頼できる情報を求めているのだ。
 あるミャンマー人男性は「ラジオを探し回ったが、手に入らなかった。大手量販店に聞いたら、国軍側からラジオを販売しないように言われていると聞いた。もし手に入ったら、カバンに隠して持って帰らないと危険だ」と話す。水祭りの大型連休には、現在は使用が許されている固定式のインターネット回線も切断されるとのうわさが流れており、その前に手に入れようとしている。「このままでは、軍の都合のよい情報しか手に入らなくなってしまう」と男性は焦りの色を隠さなかった。

地下ラジオも登場
 国内の免許がはく奪された民間テレビ局が、国外から衛星を通じてニュースを配信する試みも行われているが、衛星のパラボラアンテナを使わないように国軍は住民に圧力をかけている。また、政府の許可を得ていない地下ラジオ「フェデラルFM」も放送を開始しているほか、新たに刊行された地下ミニコミ紙「モロト(火炎瓶)」は、紙面をネット上で配信して、市民らに配布を呼び掛けている。また、バス停などに壁新聞を貼って情報を拡散しようという動きもある。

アナログ式のラジオが飛ぶように売れている(4月9日、ヤンゴンで筆者撮影)

 デモに参加する若者らは「情報がなかった1988年の民主化運動とは違う。我々の武器は情報だ」と話す。また、これほどまでに抗議活動が続く理由のひとつとして「情報化社会に慣れ親しんだ若者は、インターネットがない生活などとても耐えられない。この情報にアクセスする自由を奪われて、怒っているのだ」と解説する若者もいる。
 国軍の鎮圧が始まった後、当局の残虐行為を記録していたのは、現場にいた多くの市民記者だった。しかし、3月中旬に携帯電話回線でインターネットに接続することができなくなり、それまでSNSにあふれていた、デモ鎮圧や市民に対する暴行などの凄惨な動画が減った。それでも、市民たちは、限られた手段で情報を発信しようとしているのだ。海外にいる人たちも、ミャンマーの市民の苦労の末に海外に伝わってくる情報に、耳を傾けてほしい。

 

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