ミャンマー 偽りの選挙、見えない解決
隣国での議論を基に考える

  • 2026/1/16

軍服から着替えただけの政府

 フォーラムを主宰したのは、独立系メディア「ミッジマ」の編集長ソーミンらだ。ソーミンも学生時代、1988年の民主化運動に参加した経歴を持つ。その後、インドに亡命し、1998年にミッジマを設立した。

 「ミャンマーの情勢は国外要因も絡み、非常に複雑だ。さまざまな人が異なる側面を報告し、調査や報道のために協力し合うのは明らかに良いことだ」。ソーミンは筆者の取材に、フォーラム開催の意図を語る。

フォーラムの中心になったソーミン(2025年12月28日、チェンマイで、筆者撮影)

 ソーミンが言及した国外要因だけ見ても、国軍に対する各国の足並みはそろわず、複雑になっている。ミンアウンフライン総司令官ら、クーデターを起こした国軍の幹部などに対し、欧米は制裁を導入している。だが、中国やロシアは軍事面で国軍を後押しし、今回の選挙も支援する。ミャンマーが加盟する「東南アジア諸国連合(ASEAN)」は、国軍などに対し、暴力の即時停止など5項目の要求をしているが、成果を上げられずにいる。

 このように国際社会の対応が割れ、内戦が収束しないなかで、国軍は選挙を強行した。

 フォーラムでパネリストの多くが選挙を「Sham(偽り)」と言い表した。その見方はソーミンも同じだ。「USDPが選挙で勝ち、政権を樹立するだろう。だが、それは軍服が文民風に変わっただけ。人々は受け入れず、問題の解決策にはならず、内戦は続く」

 軍政下の選挙管理委員会が1月15日に発表した途中経過によると、11日までの2回の投票で、USDPが上下両院で計157議席を獲得したという。これに軍人枠の計166議席を加えると、上下両院で過半数を超える計333議席を国軍側が得たことになる。一方、第1回の投票率は52・13%にとどまり、2020年総選挙の約72%を大きく下回った。棄権による抗議の動きが広がった実態を示唆しているが、それでも国軍は「成功」と自己評価している。

 国軍の身勝手さが浮き彫りになるなかで、ソーミンは「軍は複雑な状況で人々が混乱することを望み、自分たちだけが頼れる存在だと主張するが、真実ではない。国際社会はそうした状況を理解する試みを継続すべきだ」と訴える。そして「軍政側の偽情報に対抗し、事実を提示するため、メディアの役割はますます重要になっている」と、力を込めた。

 先のチョーゾーモーは、筆者の取材に「ミャンマーが1948年に独立後、人々がどれだけ自由や民主主義を求めて苦しんできたか、国際社会は知っているはずだ。真の同情や共感を持ってミャンマー市民の側に立ってほしい」と主張する。

 ミャンマーは独立直後から、自治権の拡大を目指す少数民族や共産主義勢力と国軍との間で内戦が続いた。政治的にも混乱し、国軍のネウィン将軍は1962年、クーデターで実権を握った。その後、ネウィン率いるBSPPの一党独裁が続き、1988年に民主化運動が起きたものの、国軍につぶされたのは前述の通りである。

2025年12月28日、チェンマイで、筆者の取材に応じるチョーゾーモー(筆者撮影)

 選挙について、国軍が統治の正当化を図る「出口戦略」と言い表したチョーゾーモーは、各国の一層の関与を求める。「人道支援を行う、独立系メディアを支援して市民の声を届ける、軍政や茶番の選挙に対し声を大にして反対するなど、国際社会には多くのことができる」と呼びかける。

 NLDが参加しなかった2010年の総選挙後、USDPのテインセイン政権は、内外の予想以上に国の自由化を進めた。これと今回の選挙を比較する向きもあるが、先出のキンオーンマーは取材に「国際社会はだまされてはいけない」とくぎを刺す。

 テインセイン政権の自由化を国際社会は歓迎し、欧米は制裁を解除。日本もミャンマーを「アジア最後のフロンティア」と持ち上げ、政府開発援助(ODA)を本格再開し、官民挙げて経済進出を図った。

 だが、キンオーンマーは「私の見方は全く違った」と距離を置く。「国際社会が犯した間違いはかなりあった。一つは、ミャンマー政策で最優先する事項を、人権や民主主義から、経済やビジネス、開発にシフトしたことだ」

 選挙の実施範囲の限定性が示すように、クーデターから5年近くたっても、国軍は全土を掌握できていない。民主派などの国軍に対する反発は強く、武力闘争が各地で続いている。

 キンオーンマーは、以前の軍政下で国民が国軍から受けた暴力などの犯罪行為が2010年の総選挙後、うやむやになり、現在の弾圧につながっているとして強い懸念を表す。「国際社会は軍による犯罪の不処罰を定着させ、人道に対する罪や戦争犯罪の継続を許した。同じ過ちを繰り返してはならない。今回の不正選挙に対して、結果も含めて拒否してほしい」

 

筆者プロフィール

(きたがわ・しげふみ) 東京新聞(中日新聞東京本社)記者。1995年入社。2017年から3年間、バンコク支局特派員。アジア・オセアニアを担当し、ミャンマーの民主化や民族問題を取材した。現在、社会部。帰国後もクーデターが起きたミャンマーの動きを追い、「ミャンマーの声」のタイトルで連載を続けている。著書に「ミャンマー政変―クーデターの深層を探る」(ちくま新書)、「ミャンマーの矛盾―ロヒンギャ問題とスーチーの苦難」(明石書店)、共著に「報道弾圧―言論の自由に命を賭けた記者たち」(ちくま新書)がある。趣味はランニング。フルマラソンは10回ほど完走。好きなミャンマー料理はブーディージョー(夕顔のてんぷら)。

 

 

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