「卑劣」
「孔雀の血は赤いのか」「赤い!赤い!」

  • 2021/3/20

【編集部注】

アジア各国の新聞の社説や論説記事などを取り上げ、その背景や解説をまじえて紹介しつつ地元への理解を深める「現地の論調」(*現在は、「報道を読む」)では、これまでミャンマーのメディアとして国営英字紙「グローバル・ニューライトオブミャンマー」の社説を多く取り上げてきました。しかし、2月1日に発生した軍事クーデターによって軍の完全統制下におかれた同紙にはいま、到底、正確とは言えない記事が掲載されているようです。ここでは、現在のミャンマーの実態と、報道の偏向ぶりを知る一助として、同紙の紙面と実態の乖離が端的に表れているFacabook投稿をご紹介します。

 ~ 以下、Facebook投稿より ~

「何言ってるんだ。無理やり働かされているんだよ!」

 3月17日、ヤンゴンの下町にある家の前の通りのバリケードが、軍や警察の混成部隊によって、撤去されていった。スタングレネード(閃光音響手りゅう弾)でデモ隊を追い払った後に、作業ははじまった。ブルドーザーや、ダンプカーが轟音を立てて、土嚢やドラム缶を切り崩していく。その中で、制服を着ていない数十人が、資材を撤去する作業をしていることに気づいた。冒頭のコメントは、兵士らが去ったあと、その平服の人たちは誰か、と周辺住民に聞いた時のことだ。

 この住民男性によると、兵士らが「すぐに来い。来なければ殺す」などと言って、付近の男性を徴用し、撤去作業を手伝わせたのだという。たまたま彼の家が現場の近くだったので、家の中から声を聞いていたのだ。通りがかりのタクシー運転手までもが作業をさせられたという。「相手は銃を持っている。嫌でも言うことを聞くしかない」と男性は憤る。本当かと思って別の住民にも聞いてみたが、やはりそうだという。自分たちが軍に対抗するために作ったバリケードを、銃で脅されて自ら撤去させられていたのだ。住民に自ら撤去させることで、もう軍には逆らえないんだ、という意識を叩き込むことが目的に違いない。

 「やつらは住民と協力して作業したと、国営新聞に載せるのさ。それがやつらのやり方だ」と男性はまくし立てた。翌日、国営新聞を見てみると、本当に載っていた。

バリケードの撤去について報じる国営紙の記事(2021年3月19日、筆者撮影)

 
 クーデター以降、私の想像を超える国軍の卑劣な行いを何度となく目にし、そのたびに驚かされてきた。今回もそうだ。自宅のベランダからバリケードの撤去作業を観察していた時に、強制労働だと気づかなかった自分を恥じている。
 
 作業に当たっていた市民のうちの数人は、土嚢をダンプカーに積み込む作業をてきぱきとこなしていた。銃を突きつけられているわけではなかった。軍の雇った業者か何かだろうかと考えていた。しかし、私が、「てきぱきと作業をしている」ように見えたのは、脅され恐怖におびえて一刻も早く作業を終えようと必死だった住民の姿だったのだ。
 
 
 ダンプカーの近くに、土嚢を運ぶ作業を見守る若い女性が一人立っていた。たくさんの凶暴な兵士がいる危険な状況でも、ひとりずっと作業を見つめて立ちつくしていた。どうやら、たまたまカップルが現場を通りかかったところ、男性が徴用されてしまったようなのだ。
 撤去作業が終わると、解放された男性が女性の肩を抱いて歩いて行った。自分の恋人の前で脅され、望まぬ作業をさせられている男性の屈辱感はいかばかりだっただろう。恋人が労働をさせられている場面を、立ち去ることなく見つめていた女性はどんな気持ちだったのだろう。
 
 大通りを6重7重と囲んでいたバリケードはこの日、まったくの平らにならされ、完全に撤去された。そして住民は、もう一度バリケードを築くことはしなかった。
 
 
 
 その翌日、バリケードがなくなった通りでは、集会を開くデモ隊の姿はなかった。さすがにこの場所でもうデモはできないのかと思いかけていたところ、大通りではなく裏道から、大きなシュプレヒコールが聞こえた。「孔雀(民主化運動の象徴)の血は赤いのか」「赤い! 赤い!」
 もう大通りでのデモはできないかもしれない。しかし我々はあきらめない。そう主張している声に聞こえた。
 
 
(動画はバリケードを築く住民、撤去作業を強制される住民・ナレーション付き、バリケードが撤去された大通り・ナレーション付き、写真はバリケードの撤去を報じる国営新聞)
 

 

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