アメリカとイスラエルのイラン攻撃で中国は漁夫の利を得るのか
盟友への支援を表明しない3つの理由と習近平政権の怖れ
- 2026/3/21
アメリカとイスラエルが2月28日にイランを攻撃し、最高指導者ハメネイ師を殺害したことを受け、イランも反撃して応酬が続いています。ホルムズ海峡が事実上封鎖され、原油価格の高騰など、世界経済への影響も懸念されていますが、今回の情勢はイランと近い中国にとってどのような影響をもたらすのでしょうか。中国に詳しいジャーナリストの福島香織さんが情勢を読み解きます。
2月28日にイランを攻撃したアメリカとイスラエルは、あっという間に核関連施設やミサイル発射施設を破壊し、イラン最高指導者ハメネイ師と革命防衛隊幹部らを殲滅した。この「戦争」が最終的にどう決着つくのか、まだ成り行きを観察するしかないが、チャイナウォッチャーとして注目すべきは中国への影響だろう。ベネズエラ作戦に続くトランプ大統領の「力による平和」を目指す軍事アクションの真の狙いは、中国との持久戦環境を整えるため、だと思われるからだ。
だが、アメリカの当初の目論見通りに作戦が成功しているかのように見える一方、イラン革命防衛隊側によるホルムズ海峡封鎖と激しいテロ反撃によって戦争は長期化し、アメリカは中東の泥沼から抜け出せないまま軍事資源を削られ、トランプ大統領の退任に向けレームダックが加速するのではないか、との予測も出ている。
では、中国はこのアメリカとイラン戦争によって経済的、地政学的に苦境に追い詰められるのか、それとも漁夫の利を得ることになるのか、考えたい。

「イラン・中国25カ年協力プログラム」に関する合意文書に署名した中国の王毅外相(左)と、 イランのモハンマド・ジャヴァド・ザリフ外相(2021年3月27日撮影) © Tasnim News Agency / wikimediacommons
イラン経済の空白を牛耳ってきた中国
中国とイランは、ことアメリカとの関係については盟友関係にある。イランがアメリカから厳しい制裁を受けるなか、中国は一貫してイランを支え続け、2021年には「包括的戦略的パートナーシップ協定」を締結。中国はイランに対して25年間にわたり4000億ドルのインフラ投資を行う代わりに、安価で良質なイラン産原油の9割を独占的に輸入することで合意した。その結果、中国製造業は価格競争に勝ち抜き、イランを拠点に中東における市場も拡大した。こうして、欧米諸国や韓国、その他の外国企業の撤退が相次いだイラン経済の空白を中国企業が牛耳り、イラン側も中国経済に依存する構造が確立。イランは、中国製のハイテク製品やステルスレーダーなどの国防設備のほか、インターネット監視や検閲、ファイヤーウォールなど、デジタル独裁のシステムを手に入れた。
そんなイランは、中国の習近平国家主席が肝煎りで進める国家プロジェクト、一帯一路構想の拠点の一つであり、2023年から24年には、上海協力機構(SCO)とBRICSに正式加盟を果たした。一帯一路構想も、SCOも、BRICSも、中国が将来的に構想する人民元機軸の金融圏と新しい安全保障枠組みを形成し、従来のアメリカ中心の国際社会と対抗するという習近平外交の最終目標である「人類運命共同体」の基礎となる構想だ。
しかし、そこまでイランを重視しておりながら、アメリカとイスラエルが仕掛けた今回のイランへの攻撃については、いつものような激しいアメリカ非難の言葉を浴びせるでもなく、イランに対して具体的な支援や擁護を表明するでもなく、極めて慎重な姿勢を維持している。この理由は何なのか。
台湾問題やホルムズ海峡情勢を巡る思惑
大きく三つの理由が考えられる。
第一に、イランを叩くことで中国を追い詰めようとするアメリカの狙いを知ったうえで、4月に予定されている(延期になるようだが)米中首脳会談でアメリカからなんらかの妥協を引き出す交渉を期待しているという可能性だ。その際、最大のテーマはおそらく台湾問題だと思われる。
中国にとってイランは確かに重要なパートナーであるものの、習近平国家主席の野心上、台湾問題は最優先事項だ。仮にアメリカが今後、イランとの戦争終結に手こずりそうな様子が見られれば、中国がイランカードを用いることで、台湾問題に関しアメリカから一定の妥協を引き出すことができるかもしれない。たとえば、トランプ大統領が「台湾の独立を支持しない」と発言するだけで、台湾でこの秋に予定されている統一地方選挙(九合一選挙)では現政権の民進党勢が壊滅的に敗北し、台湾の世論が分裂し、次の台湾総統選で頼清徳総統が惨敗することになるだろう。
第二に、習氏がイランを重視している一方、内心はイランの振る舞いに腹を立てているという可能性だ。中国は、サウジアラビアをはじめスンニ派が多数派を占める湾岸諸国とも関係が良好で、2019年から2024年までの中東地域全体に対する直接投資額は、約890億ドルに上る。中国の原油総輸入量のうち、イランからの輸入は10%程度で、イラン以外の中東諸国からの原油輸入量は50%近くを占めている。イランがアメリカへの反撃としてホルムズ海峡を封鎖すれば、一番困るのは実は盟友中国だ。イランは中国船籍や中国船主の貨物への攻撃を避けてホルムズ海峡の通過を認めている、との情報もあるが、その後、イラン側は機雷をばらまいていると発表した。そうなれば、船主が誰であるかということは関係なくなる。中国海運大手の中遠海運は、同海峡を通過する船舶の予約の受付を早々に停止した。イギリスのロンドンとアメリカのワシントンDCに本社を置く国際ニュースチャンネル『イラン・インターナショナル』によれば、中国がイランに対してホルムズ海峡の航行を確保し、特にエネルギーの輸出を中断しないように圧力をかけているという。
また、イランが攻撃したサウジアラビアなどにおけるパイプラインやデータセンター、海水淡水化施設などは、中国の投融資によって建設されたものである。それを破壊されて損害を受けるのは、アメリカではなく、中国だ。イランがこうして中国に配慮しない振る舞いを続ければ、中国もイランのためにリスクを冒して軍事的に支援したり、介入したりしようとは思わないだろう。
アメリカの戦略的な失敗を予見か
第三に、この戦争は結果的にアメリカの戦略的な失敗に終わると中国が見ているという可能性だ。
上海の独立系シンクタンクである上海環太平洋戦略国際問題研究センターのネルソン・ウォン所長は、中東諸国の国際関係について扱う言論サイト『ミドルイースト・アイ』に寄稿し、「イランに対するアメリカの大規模な軍事行動は、かなり早い段階で損失をもたらす可能性はあるものの、イランの政権を交代させることは困難だ」という見立てを出している。「こうした状況下で、北京はロシアとウクライナ戦争への対応と同様のモデル——すなわち、直接的な介入は控えながら、攻撃を受けているイランとの正常な国家間関係を維持し、国連において政治的・外交的な支援を提供し、国際法に違反しない範囲で経済的に関与し続けるというモデル——を取ることができる」と、ウォン所長は指摘する。
こうした態度をとることで、中国は国連憲章と国際法に対して自らの立場を根拠付けると同時に、イラン政府に対して国際舞台における正当性とアメリカ側の「暴力」への非難のレトリックを提供できるというわけだ。アメリカは長引く中東の紛争に軍事リソースを割きすぎて、インド太平洋地域やアジア方面への目配りがきかなくなる。その隙をついて、中国が台湾統一を果たすチャンスをつかむかもしれない。アメリカの暴力が「力による平和」「力による正義」と言うのなら、中国も同じロジックで「力による現状変更」を台湾の平和のために行っており、台湾人民は歓迎している、というプロパガンダを展開できる。
イランの体制転換は中国の悪夢
だが、もしイラン情勢がアメリカの当初の戦略通りに推移すれば、どうなるのか。
少なくともアメリカは、圧倒的な軍事力、作戦能を見せつけた。イランに配備されたとされる中国製の新型長距離地対空ミサイル「HQ9B」や、長距離移動式3D対ステルス監視レーダーYLC8Bは、まったく役目を果たさなかった。これらは250キロ先からアメリカ製のステルス戦闘機F35やF22を探知し、迎撃できるという触れ込みだったため、中国の軍事的な自信とプライドをへし折ったことは間違いない。中国が自慢気に同盟国に売りつけてきた最新の国防兵器はポンコツであることが暴かれ、今後、世界市場に向けて国防産業を売り込む際にも大きな支障が出るだろう。
また、自分と同様の独裁者が次々とアメリカの斬首作戦によって排除されているのを見て、習近平国家主席は「明日は我が身」と不安を覚えたかもしれない。ベネズエラにしろ、イランにしろ、アメリカが行った軍事作戦は、内部情報を正確に得た諜報能力の勝利であった。つまり独裁者の周辺にアメリカに通じる裏切者がいた可能性がある。このことは、党中央と解放軍で大粛清を続けている習氏の疑心暗鬼に追い打ちをかけたに違いない。
習氏は、中国が毎春開いている大きな政治イベント、全国人民代表大会の解放軍・武装警察隊代表団全体会議で「軍中には、党に対して二心(裏切りの心)を持つ者があってはならず、腐敗分子が潜む場所があってはならない」と強く警告したが、これは氏自身のおびえと焦りを反映していると筆者は考える。
さらに習氏は、イランにおける反政府学生運動の盛り上がりに怯えている。アメリカがイランを攻撃したことに対して西側の国際社会からさほど大きな非難の声が出ていないのは、昨年から再燃しているイランの反政府学生運動をイラン政府が武力鎮圧し、数千人規模の死者を出したことが「悪」だとみなされているからだ。実際、少なからぬ自由と民主を求めるイラン国民からは、アメリカの「力による正義」をむしろ歓迎する声が上がった。
経済的に低迷し、人民への統制支配が強化され、党中央においても、解放軍においても、理不尽とも思える粛清の嵐が吹き荒れている状況下で、自分が人民に嫌われ、側近にも自分に反発している人間がいることを自覚している習氏は、不安で仕方なかろう。
事実、中国では、経済や政治が停滞していた時期に、国際社会の反政府運動や体制転換運動がしばしば飛び火し、一気に燃え広がったことがこれまでに何度かあった。
1989年の東欧革命は、中国に波及して天安門事件を引き起こしたし、2010年末よりチュニジアから中東諸国にアラブの春が広がった際は、2011年2月に中国版ジャスミン革命が起こりそうになった(実際には未遂に終わった)。
もし、アメリカの攻撃に呼応して、イランの学生運動が革命防衛隊政府を転覆させ、親米の民主主義政権が誕生するようなことになれば、それは中国にとって悪夢の始まりだ。イランを拠点とした一帯一路構想やSCO、BRICSの枠組みを通じた人民元機軸構想が足元から崩れ、新たな国際社会の枠組みを中国主導で再構築し、偉大なる中華民族を復興するという「中国の夢」は潰える。そればかりか、独裁者打倒の機運が中国国内にも伝播し、共産党体制の崩壊にもつながりかねない。少なくとも、人民の不満は、火種さえ投じれば燃え広がるのに十分なほど高まっている。
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イラン情勢が最終的にどうなるかは、まだ判断がつかない。アメリカのレームダックを加速させ、ロシアとともに中国も漁夫の利にあずかるかもしれないし、独裁の習近平政権の終焉を速めるかもしれない。あるいは、アメリカと中国が互いに潰し合い、新たな多極構造ができるかもしれない。いずれにしろ、第二次大戦以降、変化しながらも続いてきたアメリカ中心の国際社会秩序が大きく転換する趨勢は加速している。
(ふくしま・かおり)1967年、奈良市生まれ。大阪大学文学部卒業後、産経新聞大阪本社入社。上海復旦大学での語学留学を経て、香港支局長、中国総局(北京)総局員で中華圏取材に従事。2009年に退職し、フリージャーナリストとして中華圏取材を継続している。主な近著に『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房)、『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所)、『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス)、『コロナ大戦争でついに自滅する習近平』(徳間書店)など。メルマガ「福島香織の中国趣聞」(https://foomii.com/00146)
















