少数民族武装勢力から見たミャンマーとタイの国境情勢
クーデターがカイン州にもたらした影響と、それぞれの思惑を読む
- 2024/2/15
PDFとは同床異夢も、軍には逆風
第6旅団管区では、積極的に戦闘に従事しているのは、ほとんどPDF要員だという。これは、人数の割合がKNUよりPDFの方がかなり大きいというだけでなく、軍政による厳しい弾圧を目の当たりにしてきたPDF要員の士気が高いためでもあるだろう。その一方で、これまで70年以上の長きにわたり軍政と対峙してきたKNUは、経験上、組織として生き延びることを優先している。
前述の通り、KNUは軍政からの和平協議に組織としては応じてはいないが、最近は、退職したばかりの元議長や第6旅団関係者らが、招きに応えてネーピードーを訪問している。つまり、KNUは、将来の見通しが立たない中、民主化勢力と軍政のどちらかに偏り過ぎることなく、バランスをとっていると言える。また、主要な拠点をタイ側に置くKNUは、タイが軍政と比較的良好な関係を維持していることも、当然、意識しているだろう。KNUと、軍政の打倒を目指すPDFは、同じように国軍と戦っているように見えても、同床異夢の関係にあるのが実態だ。
ところで、先にも触れた通り、中国国境域と、インドおよびバングラデシュ国境域で、強力なEAO同盟軍である「3兄弟同盟」が2023年下旬に「1027作戦」を発動し、国軍を圧倒している。3兄弟同盟のうち、コーカン族とパラウン族から成る2つのEAOは、中国国境域にあった自治区を2024年1月初めに占領し、直後に中国の仲介で軍政と停戦に合意した。これらの自治区は、軍政側のコーカン族とパラウン族が統治していた。3兄弟同盟の目的は、民主化の促進というよりも、自治区を統治することにあるように見える。
他方、軍政が停戦に応じたことは、強大な3兄弟同盟に軍政が妥協したことを示唆している。この直後には、カイン州でも、国境警備隊が今後、国軍から給料や補給物資の提供を受けることをやめて中立を保つと宣言。国境警備隊が第5旅団管区から撤収したため、国軍もやむを得ず多くの部隊を撤収した。国境地域に限定した場合、軍政に逆風が吹き始めているということは言えそうだ。