コロナ禍が浮き彫りにしたネパール経済の格差
インフォーマルからフォーマル経済への成長が課題

  • 2021/6/21

 アジアの多くの国でみられる屋台や露天商からは、人々の暮らしの息遣いが伝わってくる。しかし、彼らは多くの場合、インフォーマルセクターに属している。6月1日付のネパールの英字紙カトマンドゥポストは、社説で彼らについて採り上げた。

(c) kabita darlami / Pexels

目の敵にされる露天商たち

 社説はまず、アジアの屋台や露天商についてこう表現する。「南アジアを含む多くの途上国では、露天商がよくみられる。彼らはインフォーマル経済の歯車の一つであるだけでなく、人々が野菜や果物やその他の日用品を買うための便利なお店である」。しかし、その一方で、彼らはしばしば、そうした露天商が都市化の妨げとして行政当局の憤りの対象となる、と指摘し、つぎのように述べる。「カトマンズ盆地では特に、行政当局は露天商に厳しい態度をとる。彼らの多くが、国内の貧しい地域からきており、行政に追い出されることもしばしばある」
 社説によれば、新型コロナの感染拡大はこの傾向をさらに悪化させたという。「コロナ禍によって、露天商たちはまるで彼らが感染拡大の原因であるかのように、何度も治安担当者から目の敵にされた」
 社説は、「露天商は屋外にあり、本来は、モルタルやれんがで閉鎖されたお店よりもむしろ安全だ」と、指摘する。しかし、「いつもサンドバッグを探している人々」に対し、そんな真っ当な理屈は通らないのだという。社説は、「役人たちや警察官たちは、上司に見せる成果を上げなくてはならない。抵抗する後ろ盾を持たない露天商たちは、そんな彼らにとって便利な存在なのだ。露天商たちには、荷物をまとめて商品を抱え、取り締まりの役人たちから逃げる時間はほとんどない」と指摘した上で、「そんな追いかけっこが年中続いている」と指摘する。
 そのような中、新型コロナの感染拡大は、日銭で生きる露天商にとってダブルパンチだった。2020年の感染拡大下では、閉鎖空間のある店舗が営業を許されているにも関わらず、政府は露天商を取り締まり、今年も状況は同じだったという。

生活手段を奪うのではなく

 露天商にはいろいろな人たちがいる。社説は、「障害のある人たち」もまた、ハラスメントの対象になったと指摘する。
 社説によれば、道端に小さな露店を開いていた障害者たちは、わずかな商売道具さえ奪われてしまった上、地域ぐるみで「露天商お断り」として立ち入り禁止にしているところもあるという。こうした動きについて、社説は「社会の底辺で小規模の商売で何とかしのいでいる露天商たちに対する非人道的な仕打ちだ」と批判する。さらに社説は、「露天商を一方的に保護しろと主張しているのではない」とした上で、「デパートやこぎれいな店舗には行けない人たちや、オンラインショッピングができない人たちなど、露天商を必要としている消費者は確かにいる」と、指摘する。
  「露天商が車両や歩行者の通行の邪魔になることがあるのは事実だ。しかし、露天商を撤去すれば解決するわけではない。必要なのは、彼らをインフォーマルセクターからフォーマルセクターへと変化させることだ。コロナ禍であろうとなかろうと、露天商たちから生きる手段を奪うのではなく、支援してフォーマルセクターへと成長させることが賢明だ」
 新型コロナの感染拡大は、社会に内在していた課題を浮き彫りにした。インフォーマルセクターの課題もまた、その一つだろう。それは、社説が指摘するように「コロナ禍であろうとなかろうと」、取り組むべき社会課題である。
 
(原文:https://kathmandupost.com/editorial/2021/06/01/a-view-from-street-level)

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