イスラエルに対して「ジェノサイド」防止の暫定命令

  • 2024/2/26

 ガザ地区に対するイスラエルの軍事作戦について、南アフリカは2023年12月、「パレスチナ住民の集団殺害はジェノサイド条約に違反している」として、イスラエルをオランダ・ハーグにある国際司法裁判所(ICJ)に訴えた。これを受けて、ICJは2024年1月26日、南アフリカが主張する「軍事作戦の即時停止」までは命じなかったものの、「判決を言い渡すまでの間、大量虐殺を防ぐためにあらゆる手段を尽くすように」という暫定命令を出した。

ハーグ国際司法裁判所で行われた南アフリカのイスラエルに対するジェノサイド訴訟 (2024年1月12日撮影)(c) ICJ / Wikimedia Commons

即時停戦なく大量虐殺は防げるのか

 今回の暫定命令について、バングラデシュの英字紙デイリースターは、2024年1月28日付で「イスラエルにもはや小細工の余地はない」と題する社説を掲載した。

 社説は冒頭で、ICJの暫定命令を「歓迎」すると表明し、「判決には何年もかかるかもしれないが、裁判所がこれだけ早く暫定措置を命じたのは、ガザが壊滅状態にあるという主張の信ぴょう性が認められたことを意味する」と、指摘した。そして、「国連は75年前、ユダヤ人に対するホロコーストを止めるために、ジェノサイド条約を採択した。今回、ユダヤ国家がそのジェノサイド条約に違反した罪で提訴されたという事実は、皮肉というほかない」と、述べている。

 もっとも、焦点とされていた即時停戦をICJが命じなかったことについては、「懸念の余地がある」と指摘する。「イスラエルの首相は、停戦を命じないという裁判所の決定を歓迎し、自国を『防衛』し続けると述べた。要するに、イスラエルは軍事攻撃を続けるつもりだということだ」

 そのうえで社説は、「今回の暫定命令は、ガザへの攻撃の一刻も早い終結を願う人々にとってただちに希望を与えるものではない」と述べる。「停戦することなくICJの命令が実行されるのか、ということが問題だ。ガザでは、イスラエル軍の砲撃によって多くの市民が命を落としている。死者はすでに2万6000人を超え、その約7割が女性と子どもだと言われている」

 ICJの命令は、法的拘束力はあるものが、執行力はない。社説は、この暫定命令を効力ののあるものにするためには、「イスラエルの外交的・軍事的な後ろ盾となっている国々が、命令を順守するようイスラエルに働きかけるしかない」と、訴えている。

汚れた戦争を支持する米国に圧力を

 暫定命令に先立ち、インドネシアの英字紙ジャカルタポストも2024年1月17日付けで「イスラエルと同盟国、特に米国への圧力を強化することが、イスラエルを裁く最善の選択肢だ」という社説を掲載した。デイリースターと同様の主張だ。

 社説は、南アフリカによる告発について、「100日以上続いている民間人の大量殺戮をやめさせようとする国際的な圧力の高まりを受けたもの」だと論じる。また、「過去のアパルトヘイト政権下で、数十年にわたって人権侵害に耐えてきた歴史がある南アフリカは、抑圧の恐ろしさを知り尽くしている。イスラエルの責任を問うのは当然だ」として、南アフリカならではの役割を評した。

 さらに社説は、世界各地で即時停戦を求める動きが高まっていることを列挙し、「もし、イスラエルのガザ攻撃について、世界中で投票を行って決定できるなら、紛争は間違いなく速やかに終結するだろう。しかし、残念ながら国際秩序は住民投票では決まらない」と嘆く。

 「最善の選択肢は、イスラエルと同盟国、特に、汚れた戦争を続けているイスラエルを擁護することで自らの評価を下げ続けている米国に対する圧力を強めることだ。イスラエルに対する南アフリカの提訴はあくまで象徴的なものだが、イスラエルに対する世界的な圧力を強めることにつながるもので、支持に値する」

                *

 一日にいったい何人の命が奪われているのか。それを思うだけで歯がゆさが募る。ジェノサイド条約という苦難の結晶を次世代に手渡したはずの人々が、同じ罪を犯すという矛盾と悲劇。翻って、私たちは次世代にこれをどう手渡していけばいいのか、今すぐに考えなくてはならない。

 

(原文)

バングラデシュ:

https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/no-more-wiggle-room-israel-3530201

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/01/17/bringing-israel-to-justice.html

 

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