移民労働者を一刻も早く帰国させよ
ネパールの英字紙が海外の邦人保護を社説で主張

  • 2020/4/20

新型コロナウイルスは国境を越えて感染拡大しているが、人間は簡単に国境を越えることができない。多くの国で都市封鎖や入国制限が実施される中、海外で暮らす人々が「故国へ戻れない」という状況も、多く起きている。4月17日付のネパールの英字紙「カトマンドゥポスト」は、国の経済を支える存在でもある海外移民労働者が国外に取り残されていることへの憤りを社説にした。

ネパール・バクタプルのレンガ工場で働いていた日雇い労働者が体温検査を受ける様子。コロナウィルスの感染拡大を防止するためロックダウンされ帰郷できずにいたが、最高裁判所はこのほど政府に対し、こうした日雇い労働者らが故郷に帰れるよう無料で交通機関を利用させる措置を命じたが、海外に出稼ぎに出ていた邦人が置かれている苦境についても問題になっている (c) AP/アフロ

続く都市封鎖

 社説は、海外で足止めされているネパール人に対して政府が「無策」だと指摘し、強く批判する。

 「新型コロナウイルスの感染拡大で、国内の主要作業からインフォーマルセクターに至るまで、あらゆる経済が苦しい局面に立たされている。しかし、海外にいるネパール人たちも、同様に苦境に陥っていることを忘れてはならない」

 「彼らは皆、家族の生活を背負い、故郷を離れて働きに出た。しかし、経済が停滞する中で仕事を失ったり、住んでいるところから追い出されたりする人たちもいる。それでも、ネパール政府は彼らに対して何の支援もしようとしていない」

 ネパールでは、国内の感染者がまだ数名程度だった3月末の時点で、外出禁止と全国的な都市封鎖が実施された。感染が広がれば甚大な被害が予想されるため、予防措置だったという。その後、都市封鎖の期間は何度も延長され、すでに4週間になろうとしている。「封鎖に踏み切ってから4週間も時間があったのに、海外で働くネパール人たちの帰国準備が整っていないのは怠慢だ」というのが、社説の批判の論点だ。

出稼ぎ先での惨状

 社説の推計によれば、海外で働くネパール人の移民労働者が祖国に送金する金額は、2018年には81億米ドルに上るという。これは、世界で19番目に多い金額であり、ネパールのGDPの3分の1に相当する。

 それぞれの家計、そして国家経済を支える存在と言える彼らだが、多くの場合、正当な扱いをされず搾取や差別にあうなど、今のようにコロナ禍にさらされるようになるより前から、その立場は「苦境の連続」だった。

 その証拠として社説が紹介するのが、報道やNGOの調査である。例えば、英紙ガーディアンが2013年に報じたのは、カタールで約50万人のネパール人が搾取され、死に至る人もいた惨状だった。

 また、2017年に発表されたアムネスティ・インターナショナルの調査では、多くのネパール人が仲介業者に違法な料金を支払わされている実態が明らかになった。生活を支えるためには海外に出稼ぎに行かざるを得ないものの、そのために借入金が増える、という悪循環が生じているのだという。

行き場を失い路上生活も

 こうした状況に追い打ちをかけるように、移民労働者たちに未曾有の危機をもたらしているのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。

 社説は、移民労働者が現在、直面している状況を描写する。例えばルーマニアでは、500人のネパール人が、無給か給与削減で自宅待機を強いられているという。また、比較的環境が良いと言われるマレーシアでも、都市封鎖下では「自力で」生き延びざるを得ない状況だという。移民労働者らは通常、狭い場所にすし詰めになって暮らしているので、感染も懸念される。

 一方、インド国境では、帰国を希望する数千のネパール人が足止めされている。彼らは、数百キロの距離を歩いて国境までたどり着いたという。社説は、「この紙面で繰り返し求めてきた通り、彼らを入国させることは憲法45条に基づく政府の責任である。中国・武漢から175人のネパール人をチャーター機で帰国させた前例もある」と訴える。

 さらに社説は、アラブ首長国連邦で第三の都市であるシャルージャで、40人近いネパール人が約束の報酬を支払われないまま路上生活を強いられている事実をつきつける。同紙の報道によれば、彼らは約束が果たされなかった時点で仕事を辞し、現地のネパール大使館に駆け込んだものの、帰国準備をしている最中に、アラブ首長国連邦とネパールの双方が新型コロナウイルスの水際対策を強化し、国外からの入国が一切禁じられたことから、行き場を失ったという。

 社説は、こうした事態に柔軟かつ迅速に対応しない政府を厳しく非難する。「81億米ドルもの送金を行って国家経済に貢献している出稼ぎ労働者の処遇を改善するために今すぐ適切な対応を取らない限り、政府は次の選挙でしっぺ返しをくらうだろう」

 ネパールからの視点だが、ひるがえって日本にいる外国人への思いやりある対応が必要だと思わされる。

(原文:https://kathmandupost.com/editorial/2020/04/16/bring-them-home-now)

 

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