新型コロナで崩壊迫るフィリピン医療
現状を直視しない政府を地元紙が批判

  • 2021/5/20

 東南アジアでインドネシアに次いで感染者が多いフィリピンでは、コミュニティ隔離や外国人の入国制限など、厳しい防疫対策が続いている。地元英字紙インクワイアラーは、4月29日付けの社説でこの問題を採り上げた。

WHOはフィリピンの医療がひっ迫し「レッドライン」に入ったと宣言した (c) Mara Rivera / Unsplash

100万人を超える感染者

 フィリピンでは4月26日、新型コロナの感染者が100万人を超えた。社説は「2020年1月30日に初めての感染者が確認されてから452日目、この国では感染者が増加し続け、ウイルスとの闘いはまだ続いている」と、指摘する。
 「4月27日現在、フィリピンの感染者数は累計約101万4,000人に上り、東南アジア諸国の中ではインドネシアに次いで感染者数が多い国となった。死者も1万6916人に上っている。他方、フィリピンと同程度の人口を擁するベトナムの感染者数は2852人、死者は35人にとどまっており、2020年に経済成長をした数少ない国の1つでもある。フィリピンはこんなに最悪の経済状況だというのに」
 同じ東南アジア地域でありながら、感染状況にこれほど大きな差が出たフィリピンとベトナム。この原因として、社説は「フィリピン政府が現実を直視していない」と批判する。
 「この恐ろしい数字をみれば、深刻な失敗や過ちをフィリピン政府が内省し、感染者がこれ以上増加するのを避けるために、今すぐ毅然たる行動を取らなければならないことは明白だ。しかし政府は今なお状況を軽視し、回復率の高さや死亡率の低さなど、“前向き”な数字のみを国民に強調している」
 その一例として社説が挙げたのは、大統領報道官の言葉だ。
 「大統領報道官は、“100万人という感染者数にだけ注目するのはやめよう”と呼びかけた。“実際には90万人以上がすでに回復しているため、治療中であるのは10万人以下であること、そして感染者数が増加しているのはフィリピンだけではないことも意識したい。変異株が現れてもこの程度の数値に抑えられているということは、我々はしっかり感染拡大をコントロールできているということだ”と、政府は主張している」

医療崩壊のレッドライン

 その上で社説は、「どんなに現実から目をそらしても、医療システムが限界に近づいていることはまぎれもない事実だ」と訴える。
 「首都圏に用意された新型コロナウイルス患者のための集中治療室の病床はすでに69%が使用されているほか、隔離のための病床は59%、その他の病床は64%、人工呼吸器の58%が使用されている。これだけでも十分に心配な数値だが、これでも3月から実施されている厳格なコミュニティ隔離措置によって改善されつつある。隔離が厳格であればあるほど経済回復は遅れ、企業の倒産や失業が生まれるという痛みを伴うのは事実だが、必要なことでもある」。
 こうした状況に対して政治家たちも声を上げ始めているという。例えばビジャヌエバ上院議員は、「政府の数字は楽観的過ぎで、現実にはこれ以上の感染者がいる」と見ており、「現時点でこの数値に至ってしまったということが非常に憂慮される。今後、感染者はまだ増えると言われており、世界的にみても大変憂慮すべきレベルだ」
 世界保健機関(WHO)は4月初頭、フィリピンが「レッドライン」に近づいていると宣言した。レッドラインとは、感染者数が増えてその国の保健医療のキャパシティを越える状態を指す。例えば、1日あたり30万人以上の新規感染者が出ているインドでは、医療用酸素や病床、医療機器が不足し、悲惨な状況に陥っている。
 これを受け、ホンティべロス上院議員は「国民も議員もこの1年間、政府に対して繰り返し検査態勢や感染経路の追跡、隔離、治療について改善を求めてきたが、その声は届かず、状況はここまで悪化してしまった」と憤る。社説も「政府はいまだ感染拡大を抑制できており、対応に誤りはないと繰り返しており、一層悲惨な状況がこの国に待ち受けているようにしか思えない」と、悲観する。
 新型コロナの感染拡大が始まって1年以上が過ぎ、ワクチン接種も始まった。それなのに事態が今なお悪化していると、当時、誰が予測しただろうか。言葉を失うほどのインドの惨状と、実態さえ分からない多くの国々。社説が主張するように、世界の状況を直視することから始めなければならないかもしれない。

 

(原文:https://opinion.inquirer.net/139747/red-line)

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