人権状況を振り返る世界人権デー
自国の人権課題を、アジア各国紙はどう自己評価したか
- 2022/12/24
12月10日の「世界人権デー」をきっかけに、アジア各国の紙面で自国内の人権状況を振り返る社説が掲載されている。
バングラデシュ独立から半世紀、なおも続く政治的弾圧
バングラデシュの英字紙デイリースターは、12月10日付の社説で、「我々は人権を口先だけで語っているのか?」と題した記事を掲載した。
「世界人権デーのこの日、私たちは政治的暴力が、人権問題に大きな影を落としていることに、気づかないふりはできない。独立から51年が過ぎてもなお、政治的なデモに参加した人たちが警察の暴力によって命を奪われているのだ」。社説によると、今年11月までの間に、バングラデシュ国内では448件の政治暴力事件が発生し、64人が死亡、6496人が負傷しているという。
バングラデシュでは、与党と野党が選挙のたびに激しく入れ替わっている。社説は、現与党もかつては弾圧される側として、人権擁護を主張していたはずだ、と訴える。
「与党は、今自分たちが手にしている権利は、敵対する野党も含め、全ての人が持つべき権利であることを、今日こそ思い起こすべきだ。人権は普遍的で、奪うことができないものであり、決して政治の道具としてはいけない」
社説はまた、政治暴力以外にも、目を向けるべき人権侵害があることを指摘する。その一つが、女性や子どもたちへの暴力だ。今年はこれまでに、少なくとも886人の女性と535人の子どもたちが性的暴力の被害を受け、474人の子どもたちが命を落としたという。
社説は、最近の生活費の高騰といった経済的な困窮によって、子どもたちが教育の機会を奪われるなど、さらなる人権侵害が引き起こされていると指摘。政治家たちに「人権」という視点を持つことの大切さを訴えた。
多様な人権に寛容になれないパキスタン
パキスタンの英字紙ドーンも12月10日付の社説で、自国の人権状況についてこう振り返る。
「昨年の世界人権デーから何が変化しただろうか。残念ながら祝福すべきことはほとんどない」
最近の例として、社説は、ジャーナリストの殺害、トランスジェンダーの権利擁護、数百万の子どもたちが就学できない状況、政治家による拷問など、山積している課題について羅列した。さらに、「宗教上の寛容さ」について進展がない、と懸念を示した。例として、国内の一流私立大学で開かれた「パキスタンにおける寛容さ」というセミナーにおいて、イスラム教アフマディーヤ教団の関係者が招待客からはずされた事態を挙げた。これは、大学側が招待客としてふさわしくないとして、招待客からはずすようセミナー主催者に命じたものと考えられている。
社説は、パキスタンで今年起きた未曽有の大洪水と比べれば、人権上の課題には光が当たらず、人々の関心も集めない、と指摘した。その上で、「国民の関心と国家政策の両方が人権問題に取り組む姿勢を持たなければ、人権擁護は形骸化する」と主張する。
景気回復の背後で増える、シンガポールの虐待件数
シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、世界人権デーとは直接関係ないものの、12月8日付の社説でメンタルヘルス研究所の報告書を採り上げた。それによると、シンガポール国内では2021年、子どもに対する虐待件数が増えたという。
社説は、国内の子どもたちの状況について、就学前教育が以前よりも充実したことや、教育環境や経済状況が改善したことを指摘したうえで、虐待の通報や電話相談が前年より増えたことを問題視し、その背景として、「コロナ禍でストレスが溜まったことや、虐待に関する情報や知識が増えたことがあるのではないか」と、指摘した。
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シンガポール紙やパキスタン紙は、新型コロナウイルスや大洪水など、緊急性の高い課題の影で、現在も人権を侵害されている人々がいることを指摘した。世界人権デーだけが、人権を考える日であってはならない。人権侵害は短期間で解決される問題ではなく、今後も息の長い啓発や取り組みが重要だ。
(原文)
パキスタン:https://www.dawn.com/news/1725583/human-rights-day
シンガポール:https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/staying-on-an-even-keel-amid-challenges