ネパールのシェルパの待遇改善を
「命懸けの仕事に感謝と報酬を」と訴える地元紙
- 2021/1/3
ヒマラヤなどの登山支援で知られるシェルパは、ネパールの少数民族の一つだ。しかし、その偉大な働きにもかかわらず、ふさわしい対価や補償がないことも指摘されている。2020年12月19日付のネパールの英字紙カトマンドゥ・ポストはこの問題を社説で採り上げた。
「不可能な」冬季登頂
パキスタンにあるカラコルム山脈のK2(標高8611メートル)は、エベレストに次ぐ世界で2番目の高さを誇る。社説によれば、世界に14座ある8000メートル級の山岳のうち、ただ一つ、冬季の登頂が達成されていない山だという。「この不可能とされてきたK2の冬季登頂に、55人の大きなチームが挑戦する。このうち27人はネパールから参加するシェルパたちだ」と、社説は指摘する。
社説によれば、K2はエベレストよりも237メートル低いが、険しさは群を抜くレベルで、ベストコンディションで挑んでも登頂は困難で危険を伴うという。冬季には、天候が良好なのは一日のうちわずか2~3時間のみで、常に雪崩の危険性と隣り合わせで、気温はマイナス50度になることもある。
「これまで306人が登頂したが、84人が死亡した。また、冬季登頂に挑んだ30チームは主に天候不順のためにいずれも失敗し、最も高い到達地点は7400メートルだった」
シェルパ27人も参加
今回の冬季登頂は2020年12月21日に開始され、計画では2021年2月28日までかかるという。
登山チームは多国籍メンバーで構成され、イギリス、オランダ、ブルガリア、ポーランド、ギリシャ、スペイン、ルーマニア、スイス、イタリア、チリ、米国、フィンランドのベテラン登山家たちが参加している。ここに加わる27人のシェルパを率いるのが、チャン・ダワ・シェルパ氏、38歳だ。彼は、最年少で世界の最高峰14座をすべて登頂した記録を持つ。社説は、「この登頂が成功すれば、チャン氏にとって新たな記録になるだけでなく、彼の率いるシェルパチーム全員に栄誉が与えられるだろう」と、期待を寄せる。
しかし、困難な登山には欠くことができないシェルパたちだが、その存在は必ずしも注目されてはいない。
「シェルパたちは不屈の精神で超人的かつ命懸けの仕事に取り組んでいるにも関わらず、政府や関係者から十分な関心を得ているとは言えない。シェルパたちの数々の犠牲は山の陰に隠れ、愛する者を失った家族たちは静かに祈ることしかできない」
その上で社説は、登山界に対し、シェルパたちの貢献をこれ以上無視するな、と主張し、次のように訴える。
「登山家たちはシェルパにおおいに依存している。これ以上、彼らが背負っている重い任務が無視されることがあってはならない。この世でも最も危険な仕事の一つに命を懸けている人々に対し、十分な報酬が補償されるべきである」
さらに、ネパール政府に対してもこう要望する。
「政府は、国家財政に大きく寄与しているシェルパコミュニティを何十年にもわたって搾取し続けてきた。今こそ、この状況を終わらせる時だ」「政府は登山ビジネスを改革してシェルパが仕事を受けることで貧困から抜け出せる仕組みを立ち上げたり、危険性を最小化するために気象技術や登頂訓練などに投資を行ったりするなど、積極的に取り組むべきだ」
コロナ禍の今も、登山家たちの挑戦が続けられていることには、壮大なロマンを感じる。そこに欠かせないシェルパたちの存在に焦点を当てた社説は、ネパールの新聞ならではだと言えよう。まずは今回の挑戦で悲劇が起きず、全員が無事に目標を達成できることを祈りたい。そして、挑戦が成功しても失敗しても、シェルパたちの地位向上と待遇改善が実現することを願いたい。
(原文: https://kathmandupost.com/editorial/2020/12/15/support-the-sherpas)