バッタの大群がネパールに襲来
後手に回った対策に募る危機感

  • 2020/7/8

 世界各地で農作物などに被害をもたらしているバッタの大群が、ネパールにも襲来した。ネパールの英字紙カトマンズ・ポストは、6月30日付の社説でこの問題をとりあげた。

首都カトマンドゥでもバッタの襲来が確認された。市民は写真を撮るなどして珍しがっているが、新型コロナの影響下で対策は困難を極めており、農作物への影響が懸念されている (c) ZUMA Press/アフロ

楽観的だった政府

 このところバッタの大群がネパール各地で確認されており、ついに首都カトマンズにも飛来した。社説によれば、それは十分、予期されていたという。「ついにバッタが襲来した。われわれはいつものように、事態が差し迫ってから慌てて対処しようとする。古い習慣からは抜けきれないものだ」。

茶化したような表現で始まる社説だが、事態は深刻だ。「つい先週まで、政府はまるでバッタがネパールに来ることはないかのような姿勢だった。まるで、我々の知らないうちに、事態が突然変化したとでもいうかのように。そして先週末、バッタは突然、ネパールに飛来し、われわれは不意を突かれた。こうして、本来ならば十分に勝てたはずの闘いが、闘うことすらできない状況になった」

 社説によれば、農業大臣は当初、バッタの大群を「大変小さいもの」だととらえており、6月28日には「容易に防御できる」と発言したという。そして、大臣は今なお事態の深刻さを否定し、「国連やインドにもバッタの動静について照会した」と発言しているが、バッタは、すでに首都カトマンズのみならず、チタワン、バラ、ルパンデヒ、サラヒ、パルサなどでも確認されている。「この大群が全土に広がり、野菜を一気に食い荒らすのは時間の問題だ」と、社説は警告する。

困難極める対策

 新型コロナウイルスの感染拡大下にあって、バッタ対策は困難を極めている。バッタを除去するための薬剤の調達は難しい上、価格も高い。入手したとしても、輸送手段も限られる。代替としてその地域で入手できる素材や、自然由来の素材が注目されているという。社説もこれを「環境にも良い」と歓迎した上で、「いずれにせよ、バッタの大群は、今、すぐにでも排除しなければ大変なことになる」と、危機感を募らせる。「モンスーンの時期は、バッタの繁殖にうってつけだ。第二世代のバッタは、より強暴に野菜を食い荒らすだろう」。

 ソーシャルメディア(SNS)上では、バッタを食用にするアイデアも流布している。実際、バッタはたんぱく質を多く含み、ネパールが50年前にも大群に襲われた際は、それを食用にしたという逸話もあると、社説は指摘する。しかし、今日のバッタは食用に適さないという。化学薬品が大量に散布されているため、バッタが本来持っている栄養素より、身体に及ぼす害悪の方が大きいというのだ。

 さらに社説は、バッタによって農作物に深刻な影響があれば、多くの農家が立ち行かなくなる、との見通しを示す。ここで求められるのが、政府の支援だ。「政府は一刻も早く国民に警戒を呼びかけ、農作物が被害を受けた際の支援策を用意したり、食料の備蓄を確認したりするなど、早急にバッタ対策に着手すべきだ。それと同時に、どうすればバッタの被害を最小限に食い止めることができるのか、バッタを食べれば健康にどのような影響があるのか、適切な情報を国民に提供することも必要だ」と、社説は訴える。

 新型コロナウイルスの影響が経済と社会の根底を揺るがしている今日、このうえさらにバッタの被害まで加わることは、ネパールのみならず、世界のどの国にとっても絶対に避けたい状況だ。これは、決して対岸の火事ではない。国際的な取り組みと支援の枠組みを、喫緊に立ち上げることが求められている。

 

(原文:https://kathmandupost.com/editorial/2020/06/29/the-pests-have-arrived)

 

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