米国がインドネシアと南シナ海問題で協力を模索
インドネシアの英字紙は「米中対立に巻き込まれずASEAN主導の外交を」と訴え

  • 2020/11/3

米国のポンペオ国務長官は10月29日、インドネシアを訪問し、ルトノ外相と会談。中国などとの領有権争いが続く南シナ海問題で、インドネシアとの協力を模索すると表明した。長官の訪問に先立ち、インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは10月26日、中国と米国のインド・太平洋地域をめぐる駆け引きを社説で採り上げている。

ASEAN、なかでもそのリーダー的な立場にあるインドネシアの外交姿勢が問われている (c) Tom Fisk / Pexels

米、中、日の活発な外交

 「東南アジアを舞台に、米国と中国による早指しのチェスゲームが始まっているようだ」。社説は、アジアをめぐる最近の活発な外交をそう表現した。「東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国をどう仲間に引き入れるかという駆け引きに、この地域のみならず、世界中を巻き込んだ新型コロナウイルスのワクチン開発をめぐる動きが加わって、その動きは一層活発になっている」

 社説は、インドネシアは10月9日、ルフット海洋・投資担当調整大臣を中国へ派遣したと伝えている。これは、中国の王毅外相が東南アジア5カ国を歴訪するのに先立ち、インドネシアをワクチン生産の拠点にするという中国側との約束を確認するためであった。

 その翌週には、インドネシアのプラボウォ国防大臣が、米国のマーク・エスパー国防長官と会談するためワシントンDCに向け出発した。これは、プラボウォ氏が人権抑圧に関わった経歴を持っていることを理由に入国を禁止していた米国が、その禁止を解き同氏を招待したことに応えたものだという。

 また、10月18日からは、「米国の同盟国である日本」の菅義偉首相が、就任後初の外遊としてベトナムとインドネシアを訪問した。これについて、社説は「軍事・海洋安全保障の観点からASEANとの関係を強化したいという日本側の目的があった」との見方を示す。その上で、菅首相のコメントについては、「マレーシアを訪れていた中国の王毅外相が、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国が進める“自由で開かれたインド太平洋構想(Quad)”について『インド太平洋版のNATO(北大西洋条約機構)を構築しようとするものだ』と批判したことに対する反論であったのは明らかだ」と、指摘した。

強硬姿勢に懸念も

 その上で社説は、米国のポンペオ国務長官の外遊について「かつて中国や北朝鮮の大使も務めた経験を持つ長官が、今回、インド太平洋構想を意識し、関係諸国を回るために、インドに始まり、ASEANの事実上のリーダーであるインドネシアで終わるという旅程を組んだことに驚きはない」と、述べる。

 米大統領連を目前に控えたこの時期に、長官がインドを含むアジア諸国に外遊したことは、中国に対するトランプ政権の強硬姿勢を改めてアピールする目的もあるとみられる。しかし、この強硬姿勢についてはインドネシア国内で懸念する声も強い。報道によれば、インドネシアのルトノ外相はポンペオ長官との合同記者会見で、「全ての国が世界の平和、安定、繁栄に向けた取り組みに関与する必要がある」と訴えたという。

 社説は、「“自由で開かれたインド太平洋構想”は、まるでこの地域における中国の影響力を弱体化するための“アジア太平洋地域主義”のようだ。これまで中国に受容されていたASEAN主導によるインド太平洋地域の枠組み自体が、再定義される可能性もある。インドネシアは、決してゲームの主導権を手放し、見失うことがあってはならない」と、主張する。

 ASEAN、なかでもそのリーダー的な立場にあるインドネシアが、米中の対立に飲み込まれるのか、それとも独自の立ち位置を築くことができるのか。インドネシアが掲げる「自由で独立した外交」の力量が試される。

 

(原文: https://www.thejakartapost.com/academia/2020/10/26/high-paced-chess.html)

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