下水道清掃員の尊厳と権利
底辺に光を当てるパキスタンの社説

  • 2019/12/30

どの国にも、下水道清掃という仕事があり、従事している人がいる。衛生的な暮らしの基本となる大切な職業だが、安全に十分な配慮がされていない国もまだ多い。パキスタンの英字紙ドーンは12月22日付けの社説で、下水道清掃員の安全について論じた。同国には職業選択の自由を奪う「カースト」という問題もあると指摘されている。

パキスタンでリサイクルできそうな廃棄物を探して歩くゴミ拾いの少年 (c) AP/アフロ

偏見で奪われる命

 社説は、パキスタンでの下水道清掃員について、「人々の日常生活に欠かせない重要な仕事の一つであるが、彼らは社会の隅に追いやられ、見過ごされ、劣悪な待遇を受けている人々である」と、表現する。

 そして、「パキスタンでは、制度上は消えていても人々の意識の中に残っている残酷なカーストシステムのもと、彼らはその役割に生まれ落ちた。そして多くの下水道清掃員が、何の装備もなく、体一つで地下の汚物を清掃する仕事をしているのだ」と、する。

 社説によれば、彼らには、安全のための装備も、時には靴や服もなく、病気や負傷の危険にさらされているのだ。さらに、彼らの多くが当然のように、生まれながらにその職業に就くことが定められてしまい、技術や知識を身につける職業訓練がなされないまま、仕事を続けるのだという。

 社説は、その結果起きた悲劇を挙げる。カラチでは、8月、下水道の清掃にあたっていた30歳の男性が有毒ガスで死亡し、その同僚も意識不明に陥った。2017年には、28歳の男性が有毒ガスを吸い込んで意識不明になり病院に運ばれた。彼の場合、「不浄」という理由で病院が治療を拒否し、死亡するという悲劇に見舞われた。彼らのように、下水道清掃員が社会に無視されたり、偏見を受けたりすることで命を奪われるケースが続いているのだ。

声を上げた人たち

 この問題について、ある社会運動家たちのグループが最近、カラチで記者会見を開いた。彼らは下水道清掃員が、安全で衛生的な作業環境が補償されていないことを指摘したという。彼らは、政府が下水道清掃員の仕事について制度化し、きちんとした契約に基づく作業とし、安全な装備や社会保険に加入させることを求めた。そして、2016年の国家衛生法や2017年のシンド州衛生法が、こうした下水道清掃員についてまったく触れていないことも指摘した。

 運動家たちは、下水道清掃員たちの声を聴くことが必要だ、と主張した。そして社説はこうしめくくられている。「下水道清掃員たちはあまりにも長い間、無視され続けてきた。彼らは権利を保障されるだけでなく、きちんと尊敬されるべきなのである」。この社説は、社会の「底辺」といわれる部分に光を当てようとする報道機関としてとても重要な役割を果たしている。 

(原文:https://www.dawn.com/news/1523619/rights-and-respect)

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