緊急事態宣言後も続くタイの民主化要求デモ
「平和的解決のために対話を」地元英字紙が呼びかけ
- 2020/10/19
タイの首都バンコクで10月14日、民主化や王室改革を求める抗議行動が始まった。15日にはタイ政府が緊急事態を宣言し、集会禁止令を発動。それでも集まったデモ参加者を排除したり、逮捕したりする事態になっている。16日付のタイの英字紙バンコクポストは、社説でこの問題を採り上げた。
再び分裂に
「緊急事態宣言の発令により、プラユット首相と独裁政権に反対する運動家たちの対立は決定的となり、緊張が最高潮に達した。タイは再び、分裂状態に陥ってしまった」。この日の社説は、こう始まった。
10月14日、バンコクの民主記念塔周辺で抗議集会が開かれ、民主化を求める学生ら数万人が首相府まで行進した。彼らの要求は、プラユット首相の退陣、憲法の民主的な改正、王室改革、逮捕された運動家の釈放などだ。これに対し政府は15日、緊急事態宣言を出し、5人以上の集会を禁じた。それでも数万の人々が抗議のために集まり、商業地区のラッチャプラソーン交差点で座り込みをした。タイからの報道によると、この座り込みは平和的なもので、夜間外出禁止令が発動される午後6時から数時間後には解散したという。
そして16日にも抗議行動は再開された。タイ治安当局は16日夜、デモ隊を排除するために放水をするなど強硬手段に出たという。
社説は「対立はエスカレートしており、解決策が見えない。政府は憲法改正以外、首相の退陣や王室改革については何も答えることができていない。この対立を収めることができるのかはプラユット政権次第だ。さもなければ、以前のようにこの国は再び深刻な危機に陥るだろう」と、プラユット政権の適切な対応を求める。そして、「10月14日の抗議集会では、集まった人々はきわめて平和的に抗議し、武装していなかったことを十分に心にとどめておかなくてはならない」と述べ、政権がこれ以上の強硬手段に出ないよう釘を刺す。
エスカレートする対立
政府による緊急事態宣言は、5人以上の集会を禁じ、これを破ればだれでも逮捕される可能性があるとしている。また、「国家の安全に害を与える報道」や「パニックを引き起こす報道」をしてはならない、と禁じている。社説は「この特別法を使うことは、首都バンコクで行われている “静かなるクーデーター” に等しい行為だ。政府に特別な権限を与えるこの命令は、人々の権利や自由を侵害し、怒りをあおるものだ。対立は一層、激しくなるだろう」と、厳しく批判する。
その上で、「プラユット首相は、アカデミズムをけん引する人々から提案されたように、反政府抗議運動の代表者たちとの対話を通じて事態を打開することを真剣に検討すべきだ。相互に議論を交わすことで、考え方の違いが建設的に埋まることを願いたい」と、結ぶ。
今回の抗議行動は、10月14日に突発的に起きたものではなく、もともと今年2月、裁判所が、若者の支持を受けた野党・新未来党の解散を命じたことに端を発している。その後、要求はこれまでタイでタブー視されていた王室改革にまで踏み込んだ内容へと発展している。16 日には治安当局による強制排除も始まったが、一連の抗議行動は今後も続くと見られている。国の根幹にかかわる対立ではあるが、いや、だからこそ、冷静で慎重な対話の積み重ねが必要なはずだ。
(原文: https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2002779/dialogue-vital-to-find-peace)